ああ、なんて愛しい人 


「芽衣…」

熱い吐息が首に触れた。
熱を孕んだ深緑の双眼が真っ直ぐに私を見つめる。

「……芽衣、」

再び名前を呼ばれて、頬に柔らかい口付けを落とされた。
それから大きな手で、優しく髪を梳かれる。

「……、藤田さん……」

私がそう口に出した時に、彼の動きがぴたりと止まる。
それから、少し不機嫌そうな声でぽつりと呟いた。

「……違う」
「え?」

端正な顔に、まるで子供のように拗ねた表情を浮かべて彼は言葉を続ける。

「…その呼び方は好かん。名前で、呼べ」
「え、ええっ!?」
「……いいから、呼べ」

じっと瞳を見つめられて、思わずたじろぐ。
八雲さんとかは普通に名前で呼ぶことができるのに、どうしてこの人だとこんなに恥ずかしいのだろう。

「……ご、五郎さん…」

口にした瞬間、顔に一気に熱が集まる。
気恥ずかしさに耐えられず、ちらりと彼に視線を送ると。

「…ご、五郎さん?」
「…っ、」

綺麗な顔を私と同じくらいに赤く染めて、彼は片手で顔を覆っていた。

「…自分から名前で呼べって言ったくせに」
「……黙れ」
「顔、真っ赤ですよ?五郎さん」
「おまえも人のことを言えないだろう」
「…五郎さん、可愛いです」
「なっ、可愛い、だと?おまえは時々意味がわからん。俺を何の根拠も無く硬派だと言ったり…」
「そ、それは誤解ですって!私はそういう意味で言ったわけじゃないんです!」
「…大体、可愛いと言われて喜ぶ男はいないだろう。…おまえの方が、可愛い」

ぎゅうっと、強く抱き締められる。
ああ、なんて愛しい人。
私もぎゅうっと、強く強く抱き締め返した。

「…五郎さん、大好きです」

そう言葉にすれば、返事の変わりに優しい口付けを与えられた。


(こんなにも貴方が愛しい)
 
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