そして私は静かに呼吸をした 



※学パロ死ネタ、とにかく病んでる








「ねえ、どうして僕達は生きているのかな」

屋上の錆びた手すりにもたれ掛かって、鏡花先輩はぽつりと呟いた。
夏の終わりを告げる生温い風が、彼の細い髪をふわふわと揺らす。

「僕は、もう疲れたよ」

普段、毒を吐くその唇から紡がれた言葉はあまりにも弱々しく、私は何と返せば良いのかわからず、ただ地面を見つめる若葉のような瑞々しい色をした彼の瞳を見つめた。

「この世界はこんなにも汚くて、僕には少し生き辛い」
「…鏡花先輩」

彼は、一度も私を視界に入れようとしない。
ただ青白い顔を俯かせて、ぽつりぽつりと言葉を続ける。

「…しあわせに、なりたいな」

彼は不意に顔を上げて、雲一つない真っ青な空を見上げた。
私は、あまりにも儚くて今にも消えてしまいそうな彼に手を伸ばしたが、思い止まってゆっくりとその手を下ろした。

綺麗好きなこの人は、他人に触れられることを異常なまでに嫌う。
だから、きっと、私が伸ばしたこの手も振り払われて拒まれるだろう。
私は、鏡花先輩に拒絶されるのが怖くて、彼を抱き締める勇気すら無くて、ただ黙って彼を見つめていた。

そして、それが彼を見た最後だった。



「…鏡花先輩、ずるいですよ」

淡い桃色の小さな花束を抱えて、私は立ち入り禁止になった屋上へ足を踏み入れる。

「貴方がいなくなったら、私はどうすればいいんですか」

私の声は、温い風に飲み込まれて消えていった。


鏡花先輩は、この世界からいなくなってしまった。
人間には翼など生えていないから、この屋上から飛び降りた彼は重力に従って、そのまま帰らぬ人となった。

「先輩、ごめんなさい。私には、貴方のもとへ行く勇気は無いんです、」

ああ、あの時。
私はどんなに拒まれたって、彼を抱き締めれば良かった。
だけど、もう彼はどこにもいない。

「鏡花先輩、」

そっと、花束を置いた。
頬を伝うこの液体が何なのか、私にはわからない。

「しあわせに、なれましたか?」

風が吹いて、桃色の花弁が一片空に舞った。



(それでも私は、この世界で生きている)

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -