※現パロ
芽衣と音二郎が現代で兄妹設定
突然ですが、私のお兄ちゃんはすごく格好いい。
「これ、音二郎君に渡してくださいっ!」
「……えーと、」
サラサラのロングヘアーの可愛らしい女の子から渡されたのは、手紙。
当然のごとく、私宛ではなく、その薄い水色の可愛い封筒に入った手紙はお兄ちゃん宛のものだ。
私を通じてお兄ちゃんにラブレターとか、告白とかをする人はそれはもう多い。
幼い頃から繰り返されてきたそれは、私にとってはもう日常茶飯事となっていまして。
私は女の子から差し出されたお兄ちゃん宛の手紙を受け取って、家へと歩き出した。
「ただいまー」
「おう、おかえり。遅かったじゃねえか、芽衣」
いつも学校帰りに寄り道をしてくるお兄ちゃんとしては珍しく、私よりも先に帰ってきていたお兄ちゃんは、居間のソファーで本を読んでいた。
「お兄ちゃん、何読んでるの?」
「おー、エロ本」
「……そういうのは、自分の部屋で読んでもらえませんかね…!?思春期の妹の前だからせめて隠すとかしてよ!」
「しょうがねえだろ。思春期男子なんだから」
「…堂々とし過ぎて逆に清々しいよ」
お兄ちゃんは格好いい。
モテるのもわかる。
だけど、こういうところは本当にどうかと思う。
お兄ちゃんの友達の鏡花さん曰わく、「川上はけだもの」らしいけど、それを否定できないことが悲しい。
「…あ、そうだ。お兄ちゃん、はい、手紙」
「おお」
私から手紙を受け取ると、お兄ちゃんは封筒から取り出したそれを読み始めた。
「…知ってる人?」
「いや、知らねえな」
「……すごい可愛い人だったよ」
「へえ」
「付き合えば?」
特に意味もなくそう言えば、手紙を読んでいたお兄ちゃんが顔を上げた。
藤色の綺麗な瞳に見つめられる。
くっきりとした二重や、色っぽい目許、通った鼻筋とか、本当にお兄ちゃんは格好いいと思う。
お兄ちゃんの美しさを妹の私にも少しくらい分けてくれたって良かったじゃないか、神様。
「…おまえ、本気で言ってんのか?」
「え、」
予想外の反応だった。
お兄ちゃんのことだから、また適当に受け流すかと思ってたのに。
「だって、なんでお兄ちゃん彼女作らないの?」
「なんで、って…」
お兄ちゃんは一瞬驚いたように長い睫毛に縁取られた綺麗な瞳を僅かに開いて、それから何か考える仕草をした。
「芽衣、ちょっと来い」
「え?うん」
言われるままお兄ちゃんの近くへ移動すると、そのままお兄ちゃんに手首を引っ張られる。
その強い力に引き寄せられて、私の身体はお兄ちゃんの広い胸の中に包まれた。
「え、ど、どうしたの?」
「……俺が何で今まで誰とも付き合わなかったかわかるか?」
「え?」
真剣な瞳。
目が、離せない。
「…芽衣、」
掠れた、切なげな声。
聞き慣れた、でも聞き慣れない声。
私は、こんなお兄ちゃんは知らない。
「…お兄ちゃん、」
ゆっくりと近付いてくるお兄ちゃんの顔。
どうしてだかわからないけど、私は反射的に目を強く瞑ってしまった。
「…ばあか、」
「へ?…って、あいたっ、」
目を開くと、にいっと端正な顔に意地悪そうな笑みを浮かべたお兄ちゃんが、私の額を指で弾いた。
「お、お兄ちゃん!もう、びっくりさせないでよ!」
「あー、わりぃ」
「もうお兄ちゃんなんて知らないから!」
「怒るなよ、芽衣」
にやにやと笑いながら、お兄ちゃんはぽんぽんと私の頭を撫でた。
それから、緩慢とした動きで立ち上がる。
「…んじゃあ、悪いお兄ちゃんは退散するよ」
「……お兄ちゃん、」
「なんだよ?お兄様は今からエロ本の続きを読みにいく」
「最低。もういっそのこと飛んでいってしまえ」
私の言葉にお兄ちゃんは小さく笑って、それから居間を出て行った。
「………」
顔に手を当てる。
これ以上無いってくらい、熱い。
「……どうしよう、」
顔が熱いのは、びっくりして、うん、そのせいだ。
お兄ちゃんの顔が赤かったのも、きっと、気のせいだ。
「…お兄ちゃんの、ばか…」
(どうか、おまえが俺の気持ちに気付かなければいい)
(私は、お兄ちゃんの気持ちに気付かないふりをする)