あと一分。
時計とにらめっこをしながら僕は教室を出て行く準備をする。
つまらない古典の授業もあと少し。
「…おい、総司!まだ授業は終わってねえだろ!」
うるさい古典教師ー土方先生の声はスルー。
そんなのに構っている暇はない。
大体、古典の授業は長いんだよ。
そんなことを考えていると同時に授業終了のチャイムが鳴り響いた。
「よし!」
「あ、おいっ、総司!!」
土方先生の怒鳴り声が聞こえたけど、そんなのは構わず僕は勢いよく教室を飛び出した。
行き先は一年生の教室。
千鶴ちゃんのクラス。
僕は今、所謂恋というものをしている。
ついでに言うと片想い。
相手は僕の後輩、千鶴ちゃん。
彼女は学校唯一の女子ということもあって、競争率はものすごく高い。
僕は性格上ガンガン攻めるタイプだし、油断していると他の男に奪われてしまうかもしれないから、毎日彼女にアピールをしている。
まあ、彼女は鈍いから全く気付かないけど。
恋って不思議だ。
毎日が楽しいし、世界がきらきら輝いて見える。…なんて乙女みたいな思考回路している僕は相当に気持ち悪いだろう。
千鶴ちゃんを好きになる前の僕は毎日を適当に過ごして、何に対しても本気を出せないつまらない日々を過ごしていた。
そんな僕を変えてしまった恋はすごいね、うん。
もう頭の中は千鶴ちゃんのことしかない。
最近、はじめ君からはやけに冷めた瞳で見られるし、左之先生からは生温かい眼差しを送られるけどそんなものは全く気にしない。
だってさ、恋しちゃったんだよ?仕方ない。
恋する僕を止められる人なんていないからね。
「千鶴ちゃーんっ!」
一年生の教室に辿り着き勢いよくドアを開いた。
その瞬間、井吹君がドン引きしていたけどそんなことどうでもいい。
教室内をぐるりと見回すと千鶴ちゃんが、いた。
どきどきと鼓動が速くなって、勝手に顔が笑顔を作る。
「あ、沖田先輩!」
にこりとまるで天使のような可愛い笑顔を浮かべた千鶴ちゃんに僕が悶え死にしそうになるのはすぐのこと。
(…おい、原田。総司の奴、どうにかならねえのか)
(…まあまあ土方さん、青春してて良いんじゃねえの?)
(…………)