犬は吠える 



※黎明録芹沢さんルート





痛む右肩を押さえ、俺はただひたすらに雨の中を走っていた。
肩を濡らす血の熱さも、強烈な痛みも、今の俺には全てどうでもいいことだった。

「…芹沢さん…っ!」

嗚咽混じりに呼んだあの人の名前は、淀んだ空と激しい雨音に消される。


芹沢さんが殺された。

俺を守るために、あの人は変若水を呑んだ。
もう、「犬」と呼ぶ声を二度と聞くことはできない。

「…芹沢さん…っ!」

俺はあんたに守られるような価値のある男じゃない。
俺は、あんたを守って死にたかった。
芹沢さんみたいな人を守って死ねれば、俺のちっぽけな人生だってなにか価値があったのかもしれないのに。

「…くそっ…っ、どうしてなんだよ…!」

双眼からぼろぼろと零れ落ちる熱い雫。
雨の冷たさが心地良かった。

「芹沢さん、」

あの人の名前を呼んだって、あの人はもういない。
答えてくれない。
名前を呼んでくれない。

「うあああああああっ!!」

喉が張り裂けそうになるくらい叫んだ声は、淀んだ空と雨音に静かに吸い込まれていった。
 
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