その微笑みは夢みたいに美しかった 


「…沖田、さん?」

少し高い綺麗な声。僕はこの声を知っている。

「…千鶴、ちゃん、」

僕を見つめる彼女はあの頃よりも少し大人びてみえた。
風に吹かれて、彼女の長い黒髪が静かに揺れる。


僕は、かつて剣士だった。
人を斬り、敵を斬る、新選組の剣だった。

けれど、僕は死んだ。
病で、血を吐いて、惨めに死んだ。
はず、だった。


僕は今、剣士ではない、ただの沖田総司として平成の世を生きている。
僕には剣だった頃の記憶がある。けれど、僕はこの世界でかつての仲間と出会うことはなかった。



「……久しぶり、だね」
「私のこと、覚えているんですか?」
「もちろん。雪村千鶴ちゃん、でしょう?」

僕の前で少し戸惑った表情を浮かべる彼女は、僕の記憶の中の彼女とは違い、幼さの消えた美しい一人の女性だった。

「千鶴ちゃん、今いくつ?」
「24、です」
「へえ、僕と一緒だね」
「そうなんですか?…なんか、沖田さんと同じ歳って新鮮です」

彼女と他愛ない会話を繰り返す。
姿は一人の女性となっていても、彼女はやっぱり変わってないと思う。ころころ変わる表情や、仕草。それは昔と何一つ変わらない。

「…皆さんは、お元気でしょうか」
「……まあ、彼等は彼等で元気にやってるでしょ」
「………そうですね」

彼女は小さく微笑んだ。
笑う彼女は、とても綺麗で。

「…私、明日結婚するんです」

不意に彼女が言った。
生温い風が、頬を撫でる。

「……私、ずっとずっと、沖田さんが好きでした。あの頃から、今も」

彼女は相変わらず笑っている。

「…だから、沖田さんに会えてすごくすごく嬉しかったです」

穏やかに笑う彼女は、やっぱり美しくて。僕は何だか胸が少しだけ苦しくなった。

「…相手は、どんな人なの?」
「とても、優しい方ですよ」
「そう。僕のことなんか忘れて、その人のことちゃんと好きになってね」
「ふふ、大丈夫です。ちゃんとその人のことは愛していますから」

彼女は最後まで微笑んだまま、僕に別れを告げた。
きっと、もう二度と彼女と会うことはないのだろう。


「…千鶴ちゃん、あのね。僕も、君のことが大好きだったよ。あの頃から今もずっと、」

もう遠くなった彼女の背中を向けて僕は呟いた。

「…だから、ちゃんと幸せになるんだよ」

時代を越えた告白は、彼女に届くことはない。

君の未来に僕はいない。
僕の未来に君はいない。

僕達はそれぞれの道を歩んでいく。



(さようなら、愛した人)
(さようなら、僕の初恋)
 
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