季節は巡り、また桜の咲く季節がやってきた。
桜を見ると思い出す。
不器用で、真っ直ぐで、最期まで武士だった彼等のことを。
ひらひらと、春の風に吹かれて薄紅色の小さな花弁が舞う。
風で乱れる髪を押さえながら、私は桜の木を見上げた。
彼等がいなくなってから迎える春は、これで何度目だろうか。
毎年、春になって桜の木がその枝いっぱいに花を咲かせる度に私は彼等を思い出すのだ。
幕府が滅び、時代は明治へと変わった。
かつて存在した、浅葱色の集団「新選組」も無くなってしまった。
誰よりも武士らしく生き抜いた新選組。
最期まで誠を貫いた浅葱色の彼等を私は一生忘れることはないだろう。
「…皆さんはお元気でしょうか」
誰に問い掛けるでもなく、私は空に呟く。
この質問の答えは一生返ってはこない。
「私は、歳をとってしまいましたね」
此処には新選組と時を共に過ごした少女だった頃の私はもういない。
「私、みなさんよりも年上になっちゃいましたよ」
時が流れる度に、私と彼等の距離は開いていく。
私だけが進んでいってしまう。
彼等を思い出にして。
ずるずるとこの永遠ともとれる長い時間を、私は一人で過ごして私だけが老いていくのだ。
桜の花弁は、まるで踊るように散っていく。
毎年桜を見る度に、私は泣きそうになる。
「やっぱり、どれだけ時が流れようが、私は寂しいんです」
彼等の居ない悲しみはきっと消えることはないのだろう。
思い出す度に、ずきずきと胸が痛くなる。
「…だから、今度は戦も何も無い平和な世界で会いましょう。誰一人、死ぬことの無い世界で」
私は彼等が大好きだった。
優しくて強い彼等。
私の、永遠の憧れ。
「でも、私が皆さんのもとへ向かうにはまだ時間がたくさんあります。だから、待っていてください。必ず会いに行きますから」
その瞬間、強い春風が吹き抜け桜吹雪が舞う。
「千鶴」
桜吹雪の嵐の中、一瞬、ほんの一瞬だけ浅葱色の姿が見えたような気がした。