鬼さん、捕まえた。 




救ってくれるなら、誰でも良かったんだ。



「っげほ、か、はっ、」

咳き込んで身体を震わせる度に唇から零れる、真っ赤な血液。鑢をこすりあわせたような嫌な音の咳。
僕の命は、少しずつ削り取られていく。

「っは、げほ、っ、」

身体を汚す血液を拭うことすらもう煩わしく、僕は布団に埋もれたままゆっくりと瞼を下ろした。

僕はこんな惨めな姿で死んでいくのだろうか。
嫌だ。そんなのは絶対に嫌だ。
死ぬことは怖くないのに、誰からも必要とされなくなることが、怖い。
新選組の剣で居られないのなら、いっそのこと、死んでしまおうか。

そんな考えが頭を過ぎって、枕元の愛刀へ視線を向けた。
今の僕は筋肉なんてとっくに削げ落ちて骨が浮き出たガリガリの身体だけど、まだ自分を殺すくらいの力なら残っているだろう。

「沖田さん、千鶴です。いらっしゃいますか?」

刀へ手を伸ばしたその時に、障子の向こう側から聞こえてきたのは聞き慣れた声。どうせ薬か何かを持ってきたのだろう。
いつもなら居留守でも使ってやるけど、今はもうそれすら面倒臭くて、咳で掠れた声で返事をした。

「……入ってきていいよ」
「はい、失礼します…って、沖田さん!?」

部屋へ足を踏み入れた千鶴ちゃんは血塗れで布団に横たわる僕を見て、悲鳴のような声を上げた。
それから、手に持っていた薬やら何やらを放り出して慌てて僕のもとへ寄ってきた。

「沖田さん、大丈夫ですか?」
「…咳は治まったし、大丈夫だよ」
「今、着替えを持ってきます」
「いい。いらない。いらないから、千鶴ちゃん、此処にいて」
「え?」
「ねえ、お願い」

僕がそう言うと、彼女は小さく頷いて、僕の傍に腰を下ろした。

馬鹿だなあ、と自分でも思う。
あんなに死にたいと、死なせてくれと叫んでいた心が、彼女の心配する表情を見ただけで、今はさっきのことが嘘みたいに静かに凪いでいる。

「…沖田さん。私、沖田さんが望むのなら、ずっと傍にいます」
「うん、」

彼女の言葉が、胸の奥に静かに落ちていく。

求めても、良いのだろうか。
この子なら、僕を救ってくれるのだろうか。

「…千鶴ちゃん、ぎゅってして」

身体を起こしてそう強請れば、彼女は自分自身が血で汚れるのにも構わず、その小さな身体で痩せた僕の身体を抱きしめた。

「…ははっ、あったかい」
「沖田さんも私も、生きていますから」

彼女は綺麗に微笑んで、僕は華奢な肩に顔を埋めて目を閉じた。


捕まえた、捕まえた。
僕を救ってくれる存在。


ー鬼さん、捕まえた。


小さく呟いた僕の言葉なんて、綺麗な彼女は一生知らなくて良い。

そう願って、僕は小さな背中へと両腕を回した。


(美しい鬼は、何も知らずに微笑う)

 
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