初恋は叶わないって、誰かが言ってた。
「…はあ」
窓の外に見えるのは、一組のカップル。
互いに手を繋いで、楽しげに話していて、見るからに幸せオーラが漂っている。
「あ!はじめ君と千鶴だ!」
僕と向かい合って紙パックの牛乳を飲んでいる平助が突然叫んだ。
…彼は毎日牛乳を飲んでいるのに、身長が伸びる兆しが全くない。
そんなどうでもいいことを考えながら、僕は窓の外へと視線を戻した。
「いいよなあ、はじめ君。千鶴が彼女なんてさ」
平助の言葉に、ずきんと少しだけ、ほんとに少しだけ胸が疼いたような気がした。
はじめ君は僕の親友だ。
千鶴ちゃんは僕の可愛い後輩だ。
だから、その二人が幸せになることを僕は心から喜べるはずだ。
だけど、僕にはそれができない。
僕の親友の恋人である千鶴ちゃんは、僕が好きな人でもあったから。
千鶴ちゃんは、僕の初恋の人。
今まで、どんな女の人に好きだと言われたって鬱陶しいだけだった。
でも、千鶴ちゃんだけは初めて心から愛しいと思えたんだ。
僕は千鶴ちゃんに恋をしていた。
(……幸せそうだな)
はにかむ二人を見て僕はそんなことを思った。
はじめ君なら、千鶴ちゃんを絶対に大切にしてくれる。
そう思ったから、僕は大人しく身を引けたんだ。
「ほんと羨ましいよなー。なあ、総司?」
「…まあね。でも、僕は平助と違ってモテるから」
「嫌味な奴!」
「モテない男のひがみとか醜いよー」
「んだと!あーあ、この世からイケメンなんて消えろ!リア充死ね!」
「平助死ねー」
「総司、ひどい!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ平助を無視して、僕はゆっくりと目を閉じた。
胸を刺すのは、鈍い痛み。
ずきずきと痛む胸。
失恋の傷跡は想像以上に深いらしい。
初恋が叶わないっていうのは、どうやら本当のことのようで。
「……幸せにね」
そう小さく呟いて、僕の胸はさらに痛くなった。
(ばいばい、僕の初恋よ)