※死ネタ
「ねえ、千鶴。洗濯物は良いから僕に構ってよ」
「だめですよ。総司さんにはいつもお日様の匂いがする服を着ていてほしいから、洗濯物を干し終わるまで待っていてください」
「えー…ずるいなあ、千鶴は。そういう言い方されると我が儘が言えないじゃない」
「ふふ、我が儘なら後でたくさん聞きますよ」
微睡みの中、小鳥の囀りが聞こえた。
障子の隙間から差し込む光がやけに眩しい。
今日は随分と寝過ごしてしまった。
総司さんが目を覚ます前に朝餉の支度をしないと。
今日は総司さんの好きな甘い玉子焼きでも作ろうか。
そうして寝起きの気だるさが残る身体をゆっくりと起こす。
それから、立ち上がろうとしてふと思い出した。
…ああ、そうだ。忘れていた。
総司さんはもう、いないんだ。
「千鶴、いつも頑張ってくれる君が大好きだよ」
「私もいつも優しい総司さんが大好きです」
「ありがとう、千鶴。僕は千鶴と出逢えて、本当に幸せだよ」
総司さんがいなくなってから見る夢は酷く幸せで
だから、朝になると忘れてしまうのだ。
彼がこの世界にいないことを。
「…総司さん、」
私の言葉に返事をする人は誰もいない。
名前を呼んでも応えてくれる人は、いない。
ああ、これはきっと悪い夢だ。
私は夢から醒めていないのだ。
そうして私は静かに瞼を下ろした。
(夢から醒めて、貴方が笑っていて、それはなんて幸せな世界なのかしら)