※死ネタ
彼の笑った顔が大好きだった。
触れる体温の心地良さも少し癖のある声も私の髪を撫でる優しい指先も、全てが大好きだった。
彼と過ごす日々が、たまらなく幸せで幸せで幸せで。
それは、まるで、夢みたいに。
「…総司、さん」
春が来て、桜が咲く頃、総司さんは私の前からいなくなった。
彼は灰になって、春の風と共に消えた。
「……総司さん、」
ひらりと、薄紅色の花弁が空を舞う。
桜は、もうすぐ散ってしまう。
私はゆっくりと目を閉じた。
暖かな風が頬を撫でて、髪を揺らす。
「……私、とても、とても、幸せでした」
そう呟けば、鼻の奥がツンと痛くなった。
総司さんがいなくなってから、縋る死体も何も遺されていない独りぼっちの部屋で、毎日毎日飽きもせずに泣き続けたというのに、どうして涙は流れ続けるのだろうか。
今も、すぐにでも泣いてしまいそう。
「…総司さんと過ごした日々は、まるで夢みたいに綺麗で、幸せでした」
今だって鮮明に思い出せる。
彼と過ごした何よりも大切で幸せな愛しい日々。
私は彼のあの笑顔も声も仕草も体温も、一生忘れることなんてできないのだろう。
「…総司さん、私は大丈夫ですから。寂しいけど、総司さんがたくさんの思い出を作ってくれましたから。だから、大丈夫。泣くのも、今日で最後ですから」
春風が吹きつけて、桜の花弁が大きく舞った。
私は、ちゃんと笑えているだろうか。
「…また、逢えますよね。私、総司さんを必ず見つけますから」
彼の笑った顔が大好きだった。
触れる体温の心地良さも少し癖のある声も私の髪を撫でる優しい指先も、全てが大好きだった。
彼と過ごす日々が、たまらなく幸せで幸せで幸せで。
それは、まるで、夢みたいに。
そんな夢みたいに綺麗で幸せな日々をこれから幾度となく思い出して、春が訪れる度に私は苦しくなるのだろう。
でも、でも、たぶん、大丈夫だ。
来年はきっと、笑って春を迎えることができる。
ひらひらと舞い散る桜を見て、そう思えた。
(愛しい日々を抱えて、私は生きていく)