居場所 



ふわり、と暖かい風と共に、薄紅色の小さな花弁が宙を舞う。

桜吹雪の美しい光景に私が思わず見入っていると、背後から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「千鶴」

端正な顔に柔らかい笑みを浮かべ、桜の木の幹に背を預ける彼はとても綺麗で。
やはり、彼には桜が似合うのだと改めて思った。

「歳三さん」
「そろそろ帰るぞ。もう昼飯の時間だ」
「もう帰っちゃうんですか?」
「…ったく、このやりとり何回目だと思ってんだ?」

歳三さんは整った顔に苦笑を浮かべ、「仕方ねぇな」と笑った。

「あと少しだけだぞ」
「はいっ」


歳三さんは木の幹から身体を離すと、私の隣へやってきた。

「おまえは本当に桜が好きだな」
「それは…歳三さんみたいだからですよ?」

私がそう言うと歳三さんは笑って、私の頭をくしゃりと撫でる。

「知ってるよ。…おまえには桜が似合うな」
「知っています」

互いに視線を合わせて、一緒に笑いあう。
私は、歳三さんと過ごすこんな何でもない時間がとても愛おしい。


はらはらと桜の花弁はただただ舞い続ける。

「……千鶴」
「なんですか?歳三さん」
「おまえはずっと俺の隣にいろ」
「…言われなくても、そのつもりです。歳三さんもずっと私の隣にいてください」
「当たり前だ」


ここが私の居場所。

何よりも愛しい人の隣に、私が居る。
私の隣に、大好きな歳三さんが居る。


「愛してる、千鶴」

私が言葉を発する前に、その唇は歳三さんに優しく塞がれて。
こんなに幸せなら、一生このままで良いとさえ思った。



(桜吹雪の中、微笑う貴方は美しかった)
 
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