再び瞼を持ち上げた時、世界は輝いて見えた 



ばいばい、ごめんね、ありがとう、大好き、愛してる。
伝えたいことも伝えなきゃいけないことも沢山あったのに、その何一つも言葉にすることはなく、僕の人生は千鶴の腕の中で静かに幕を下ろした。

独りにさせてごめんね、お願いだから僕のことを忘れないで。
身勝手な我が儘を最期の最後まで優しい彼女に押し付けたけれど、千鶴は涙を浮かべながらも、それはそれは綺麗な微笑みを僕に向けて頷いたのだ。

欲張りな僕は更に止まらずに、最期の最後の本当に最後、掠れた声で彼女に強請った。

それは、「約束」という名の人生最大級の最低な我が儘。



「…ねえ、君は生まれ変わりとか信じてる?」

春の風が心地良かった。
屋上から見上げるいつもより少し近く感じる眩しいくらいの濃い青色の空には、雲の一つも浮かんでいない。まさに、快晴と呼ぶに相応しい天気だった。

「生まれ変わり、ですか?」
「そう、生まれ変わり」

唐突過ぎる僕の質問に彼女は戸惑ったような表情を浮かべ、小首を傾げる。わざとらしくないその仕草は無意識のものだろうけど、すごく、ものすごく可愛らしい。

暖かい風が彼女の艶やかな黒髪をふわふわと揺らす。

「…私は、信じていますよ」

少し高くて透き通った凛とした声。
それは遠い遠い昔の話。僕がまだ僕じゃなかった頃に鼓膜を揺さぶった、心地良い声。

「…だって、約束したじゃないですか」

風が止んだ。
静寂が世界を包む。
琥珀色の大きな瞳が、僕を見つめた。

「やっと会えましたね、総司さん」

千鶴はそう言って、あの頃と変わらない穏やかな笑みを浮かべた。



遠い遠い、昔の話。

僕と彼女の約束。
僕の、最低な我が儘。


「…ねえ、千鶴、」
「なんですか?」
「…あのね、約束してほしいんだ。来世でも僕は君を見つけ出して、今度こそ千鶴を独りにしないから。…だから、千鶴も、生まれ変わっても僕を選んで?」
「…はい、当たり前です。私は何度だって総司さんを選びます。今度は私が総司さんを見つけ出します」



「…ははっ、相変わらず君には適わないよ。千鶴」
「私をこんな風にしたのも、総司さんですから」

暖かな風が僕等の髪を揺らす。
空は雲一つ無い晴天だ。
どこまでも穏やかな日だった。


再び瞼を持ち上げた時、世界は昔より優しい色をして見えた。



(君と、もう一度恋を始めよう。世界はあの頃よりは輝いてみえるのだから)

 
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