※色々注意!
まるで、眠っているようだった。
「…千鶴、ちゃん?」
ぴくりとも反応しない彼女の小さな身体。
閉じた瞼と、長い睫毛。
柔かな頬は、青白かった。
「…千鶴ちゃん、…」
するりと彼女の頬を撫でる。
柔らかく滑らかなそれは、ただ冷たい。
呼吸もせずに眠り続ける彼女は、夢みたいに美しかった。
「……雪村は死んだんだ」
「………死んでないよ。彼女は、眠ってるだけ」
「総司、」
「千鶴ちゃんは寝坊助さんだからね。僕が起こしてあげなくちゃ」
「……………」
はじめ君の静かな瞳が何か言いたげに僕を見つめて、それからゆっくりと視線を下に外した。
いつも何があっても真っ直ぐと人の目を見据える彼にしては珍しいことだと僕は思った。
「…千鶴ちゃんったらね、息をするのも忘れて眠ってるんだよ。馬鹿でしょう?」
「……………」
「でもね、僕はこの子のそんな馬鹿なところもね結構気に入ってるんだ」
「………総司、」
「…ほら、はじめ君は巡察の時間でしょう?そろそろ行かなくちゃ」
「…………ああ」
彼は、一度も僕を見つめることはなく、静かに部屋を出て行った。
「……千鶴ちゃん。今日はね、良い天気だよ。こんなに晴れた日なら洗濯物もいっぱい乾くよね。あとね、君が可愛がってたあの黒猫、また屯所に来たよ。僕の部屋の前でにゃあにゃあ喧しいから、千鶴ちゃん静かにさせてよ。あ、そうだ。たまにはさ、土方さんだけじゃなくて僕にもお茶淹れてよ。この間近藤さんから金平糖を貰ったから、一緒に食べようか。平助には内緒だよ。後でうるさいからさ、」
彼女からは返事が無い。
死んだように、ぐっすりと彼女は眠り続ける。
それでも、よかった。
彼女は此処にいる。
「…千鶴ちゃんはよく眠るね。君はいつも頑張ってるから、たまにはねいいと思うけど」
黒く長い髪の毛をそっと撫でる。
美しい彼女は、それは、まるで、
「…眠り姫みたいだね」
おとぎ話では、姫は王子からの口付けで目覚めるらしい。
柔かな小さな唇に、指先で触れて僕は微笑んだ。
「…それまで、良い夢を」
(眠り姫に目覚めの口付けを)
幕末に眠り姫なんて伝わっているのか?沖田は王子なんて知っているのか?とか色々ツッコミ所満載過ぎて何も言えない。