緩やかに呼吸は止まって、世界は色褪せた 


※救われない






別にね、生きることに執着心なんていうものは持ち合わせていないんだ。
死にたくないとかみっともなく喚き散らす馬鹿はこの世界には沢山いるけど、でもさ、考えてみてよ。
だって、どうせ死ぬでしょう?
いつか嫌でもどんなに泣き叫んだって、「死」は笑いながら身体に纏わりついてくる。
ほら、考えるだけ無駄だった。


「げほっ、」

ビチャビチャと赤い飛沫が跳ねて、僕の着物やら布団やら、畳やら色々と汚す。
ああ、もう鬱陶しい。汚い。こんなものが僕の命だなんて。

「っ、かは、」

怠い。苦しい。気持ち悪い。苦しい。痛いよ。
どうして、僕だけ。
僕は、近藤さんの役に立ちたかっただけなのに。
喉の奥からひゅうひゅうと掠れた、不快な音が漏れた。
口の中が鉄の味でいっぱいだ。気持ち悪いな。

鮮血で真っ赤に汚れた口元を皮と骨だけになった情けない手で拭う。
本当に、情けない。
僕はもう、刀を握ることなんて、できやしない。
近藤さんの役になんか立てない。
新選組の剣なんかじゃ、ない。
ただの役立たずの死に損ない。

「…はは、」

やけに渇いた笑い声だった。
それから、僕は泣いた。

嫌だ。嫌だ。嫌だよ。
こんな惨めな姿で死にたくない。誰か、僕を、戦場に。
戦いの中で、死にたいよ。
近藤さんのために命を懸けて、新選組の剣のままで、どうか。

「あ、」

そうか、そうか。
僕だって、死を恐れる「馬鹿」の一人だったのか。
ああ、情けない。みっともない。
僕はそんな存在に成り下がったのか。

「っ、はは、はははははっ、」

死にたくないよ。
ああ、誰か僕を救っておくれ。
誰か、こんな僕を、殺しておくれ。


(願わくば、戦場の中で死にたかった)

 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -