巡察の途中、雨が降り始めてきた。
身体を激しく打ち付ける豪雨に、屯所に帰ってきた頃には僕達一番組はずぶ濡れだった。
びしょびしょに濡れた身体や、冷たい雫が滴り落ちる髪の毛を拭うことがなんだかすごく億劫に思えて。
どうせびしょ濡れなんだから、と濡れた縁側に腰を掛けて雨が地面を打ち付けていく様をぼんやりと見つめていた。
他の人から見たら、変人だろうね。今の僕は。
「沖田さん!」
濡れた部分を避けながら廊下を歩いてきた千鶴ちゃんは、びしょ濡れになって雨に打たれている僕を見て驚いたように声を上げた。
「沖田さんっ、何やってるんですか!」
自分が濡れるのにも構わず、慌てて縁側から僕を引き剥がそうとする千鶴ちゃん。
「千鶴ちゃん、ただいま」
「おかえりなさい……じゃなくて!沖田さん、風邪引きますよ!」
「別に君には関係ないじゃない、僕の身体なんだからさ」
意地の悪い笑みを浮かべると、彼女を口元を引き結んでそれからきっぱりと言う。
「そういう問題じゃないんです!私は沖田さんに風邪を引いてほしくないんです」
僕が少し呆気にとられている間に、彼女は濡れた僕の腕を掴む。
そのまま僕は流されるまま自分の部屋へと連れて行かれた。
「今、お茶を持ってくるので早く着替えてくださいね」
「うん」
僕に手拭いを渡して、彼女は軽やかに台所へと向かって行った。
肌に張り付く着物を脱いで、手拭いで濡れた身体を拭っていく。
長い間雨に打たれた身体はとっくに冷え切っていて、ぶるりと身震いした。
彼女はたまに、あの芯の強さを見せる。
普段はおとなしいくせに、たまに見る彼女の芯の強さに僕自身も驚いてしまう。
そんなことを考えながら着替えると、襖越しに彼女の声が聞こえた。
「沖田さん、入ってもよろしいでしょうか?」
「うん」
静かに襖が開いて、湯気の出てる緑茶と、小さな包みをお盆にのせた千鶴ちゃんが部屋へ入ってきた。
「はい、沖田さん」
「…ありがとう。それは?」
彼女から熱いお茶を受け取って、お盆に乗っている小さな包みを指差す。
すると千鶴ちゃんはにっこりと笑って、その包みを僕に渡した。
「金平糖です。前に近藤さんから頂いたんです」
「ふぅん…」
「沖田さんは金平糖が好きだと聞いたので、良かったらどうぞ」
包みを開くと、色とりどりの小さな粒がたくさん詰められていた。
「……君も、」
「え?」
「君もお茶付き合ってよ。それにこの金平糖だって君が近藤さんに貰ったものだし」
そう言うと、彼女はその顔に満面の笑みを浮かべた。
それが可愛いなと思ったことは、千鶴ちゃんには言ってやらない。
彼女の淹れてくれた緑茶を呑み込むと、冷え切った身体を温めてくれる。
彼女の笑顔を見ながら、たまにはこういう雨の日も良いかな、なんて思う僕がいた。