俺はおまえが憎くて憎くて堪らなかった。
「薫、」
少し高いおまえの声。
俺とよく似た顔。
どうして、俺だけ。
どうして俺だけ、不幸なんだ。
俺と同じ顔をしたこいつは誰からも愛されて、守られて、大切にされて生きてきたというのに。
胸の奥でどす黒い感情がどんどんと沸き上がっていく。
ああ、こいつを苦しませたい。
こいつを不幸にしたい。
「薫」
「五月蝿い」
五月蝿い。五月蝿い。五月蝿い。五月蝿い。五月蝿い。五月蝿い。
その声で俺の名前を呼ぶな。
その顔で俺の顔を見るな。
「ねえ、薫」
小さな白い手が俺の腕を掴んだ。
「私達、元に戻れないの?」
俺はおまえが憎くて憎くて堪らなかった。
俺のたった一人の妹。
血を別けた、大事な片割れ。
どんなに虐げられても罵られても、俺はいつもいつも大切な妹の身を案じていたのに。
なのに、おまえは簡単に俺のことなんか忘れてしまった。
「……だから、俺はおまえが嫌いなんだよ」
呟いて、細い手首を掴み引き寄せる。
ああ、憎い。こいつが憎い。憎い。憎い。憎い。憎い。
「千鶴。おまえなんか、大嫌いだよ」
吐き捨てるようにそう言って、赤い唇に噛み付いた。
(俺は一生おまえを愛したりなんかしない)