「魔除けの・・・」
「うん?」
「魔除けの、綺麗な狐なのに・・・ふふ、子供には泣かれてしまうのね」
「・・・・・・っ」
「ふふ・・・あれが恐いなんて、思いもしな・・・・」
いつの間にか見慣れてしまった、むしろ愛しささえ感じるあの狐面を思って笑ってしまう。
笑いながらふと振り返ると、辛島くんが呆然と立ち止まっていた。
「・・・辛島くん?」
「っ!!・・・あ、ごめん・・・ちょっと、びっくりして」
「びっくり?」
「あの、お面を・・・綺麗だと、言ってくれた人は・・・いなかったから」
よくよく見れば、辛島くんは呆然としているわけではなかった。
あの、照れたような、困ったような顔で、視線を投げてくる。
あぁ・・・そうだ。
辛島くんは、狐として特殊組織に協力しているけれど。
犯罪者からも、そして味方であるはずの警察からも。
『狐』は気味が悪い、と・・・言われ続けていたのだ。
あの声で、一番傷付いているのは彼なのに。
それでもあの声で救えるものを救うために、隠しきれない悪意の中を辛島くんは耐え続けてきたのだ。
「・・・そうかしら。きっと皆、言わないだけじゃないかしら」
「でも・・・・・・狐は、裏社会では不吉の象徴だって・・・」
「それは、辛島くんが頑張っていることの現れでしょう?」
辛島くんは、褒められることに慣れていない。
人からの善意や好意を受けることに、慣れていない。
だから、わかりやすい言葉で、伝えなければいけないのだ。
人の言葉は、とてもたくさんの意味を含んでいるから。
本当の意味を伝えることは、とても難しいのだから。
「私が出逢った狐は、とても優しくて、綺麗だったよ。辛島くん」
「・・・・・・」
「・・・すぐに無茶をするから、どきどきしてしまうけれど。一緒にいると泣きたくなるくらい、優しくて、愛しい狐に、私は出逢ったよ」
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