誰が挙手するわけでもなくサクラがぎっとサイを睨み付けた。どうやらサクラではなかったらしい。

「え?そんなに僕が良いんですか?」
「んなわけあるかー!!その逆に決まってるでしょ!!どうなの!?」
「違いますよ、残念でした」

サイでもないらしい。それなら…と今度はナルトを睨むサクラ。

「畜生ー!!また外したー!!」

だがそれも外れ。ならば!と好奇の目でサスケを見るが

「俺じゃねえよ」

さらりと言い切られた。だとしたら……

「先輩!!?」

ヤマトが勢いよく振り返った先にはカカシ。残った割り箸を握り締めたまま本に読み耽っている。
というわけで、ヤマトでもないらしい。イコール、王は確実に決まった。

「ん?あ、俺みたいだねぇ」

確認してなかったのか!!誰もがそう内心つっこみを入れていたが、もうここまできたらブーイングだなんだとやっている余裕もない。

「命令は!!」

一同そうやって声を揃えた。

「あー…」

まさか自分が当たるとは思っていなかったのか、何も考えてないよと頭をかくカカシだが、じとりとした皆の目付きにさっさと決めざるを得ない状況に立たされた。
仕方がない…。ならば。

「…よし。ここは大人の王様ゲームというものを見せてあげよう」

ぱらぱらと例の本をめくりながらの言葉だったが確かにそれは場の空気を変えた。
ついに、定番のアレがくるのだろうか。誰もが息を呑んだ。そして…

「2番と4番がこの頁を綺麗に朗読ー!!」
「はぁぁあああ!!?」

ばばんと机に叩き付けられたのは例の本。誰もが知っている例の本。彼から引き離すことはできないあの本だった。
予想外だが確かに大人の展開でもある。だがしかしあまりに不意の命令に一同揃ってのブーイングは早かった。

「文句言わない。はい2番だぁれ」
「お……俺」

哀れナルト。再び犠牲者となるため挙手した腕が震えている。

「よーしナルト。はいコレ」

すっと差し出された本を細い目で見下ろす。だが…

「……っだぁああぁ!!やりたくねえってばよー!!」

全身全霊で拒絶。以前は何が何だか解らなかった本も、大人になった彼にとっては違う。完全に赤面した顔で天井高く本を放り投げた。

「ほー…ナルトも成長したわけだねぇ」
「感心するとこですかそれー!!」

続いてカカシのボケにサクラの切れの良いツッコミが炸裂する。そんな彼等を横目に、放り投げられた本は綺麗な弧を描きとある人物の前に落下した。
それをゆっくりと拾いあげるその人。折り目のついた頁はすぐに開かれた。そして

「"その時、彼の●●が●●……"」

見事に朗読を始めた。

「ぎゃぁあああああ!!!」

感情のない読み口で淡々と紡がれる文章。だがサクラとナルトは豪快な悲鳴をあげて耳を塞いだ。二重に重なり合う悲鳴のおかげで、朗読は一切聞こえなくなった。

「…サイが4番だったわけね」

小さくカカシが呟いたが、もはやそれすら聞こえない。
だがそう、淡々と朗読を続けているのはサイ。ためらうことなく、つっかえることもなく綺麗に読み綴られる文章…もはや誰にも聞こえてはいないが、確かにそれは命を確実に遂行していた。

「…はい。終わりましたよ?」

ぱたんと閉じられる本。笑っている顔は本当に笑顔なのかなんなのか…サイは得意の表情でハイとそれをカカシへ返却した。

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