立花くんを見ていると傍で会話しているとわたしはどうしようもなく内側の些細な劣情が刺激される。おとこ相手だもの、力で劣っていることはどうしようもないしわたしはあんなに頭の回転は早くない。くノ一になる者として卑屈に考えを馳せるそれはあんまり歓迎できるものではないから見なければ関わらなければいい話しなのだけれど、どうしてか出来ないのだ。どうしてかなんて白々しかったなあ、それはきっとわたしが抱いているものが恋心と呼ばれるものに該当するから。心臓の深いところがじくじく痛んで波紋となるのにはいつまで経っても慣れない、このまま立花くんが忍者になってすらりとした手に赤黒い血液を被り続けるのかとおもうと息苦しい。美しい彼はわたしの知らないところで薄汚れてしまう、わたしも彼に知られないところで必ずや穢れてしまうのだ。まだ学園という籠の中にいたからあまい蜜を吸っていられたけれどもう卒業なのだから涙なんてつけ入られる可能性があるものを溢したらいけない、泣いてしまったらそのうち自身に負けてくノ一になろうとしていることにすら後悔の念が押し寄せてしまう「立花くん」彼の学園生活をおくった記憶の中でくらいは白に近いおんなのこでいたいなあ。涼やかな目元をぴくりともしない立花くんが「なんだ」と形のいい唇を動かす。わたしも瞳を揺らめかすなんてことはしない、とびっきりのくノ一になるんだもん。それでもわたしの奥底ではなにかがしゃくり上げている気がした「……いつか、一人前になって忍たまくノ一教室は関係なく会えるといいとおもわない?」六年生全員で、呟くと「…そうだな」なんて立花くんがほんの少しだけ眉を動かして困ったように薄く微笑む。

「あのね、みんなで相変わらずだなって」
「ああ」
「あのね、誰も欠けてはいないの」
「ああ」
「それでね」

紡ごうとした声がちょっとだけ震えたことに立花くんは気づいたかもしれなくて「あ、行かないと。それじゃあ、またいつか」わたしが無理くりに方向転換をしても、立花くんは蒸し返さず「…また、いつか」とかなんとか言うからわたしはぱちりと一度まばたきをする。六年間で慣れ親しんだ頭巾がなくなったわたしの髪にすらりとした指が触れた気がしたのはきっと気のせいじゃない、情けないけれどいつまでかこの感触が忘れられることはないのだとおもう。わざわざ今ここに留まってくれていることはどうしようもなくうれしくおもうのに今はちょっと立ち去ってほしかった。もしこの先に苦しい時や泣き出したくなっても、記憶の中の立花くんや学園での思い出にすがってくノ一として生きていくことしかなくなる。例え茨の道が迫ろうと敵対として戦場で誰か知人に会おうとわたしは引き返すことは出来ない、身体を使って情報を引き出さなくてはこれからは相棒となるであろうくないで裂く感触に吐き気が溢れようとも耐えなくては、立花くんにくノ一をしているところを見られようと涙が流れ落ちないような強く美しいおんなになってみせよう。

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