「私出ていくわ」 すぱーん! そんな効果音が似合いそうな程勢いよく襖を開けて第一声、少女は叫んだ。所謂どや顔というやつだ。そして出ていくも何もここはお前の家じゃないだろう。 「何言ってるの夏目レイコの孫。人類皆兄弟って云うじゃない」 「お前が言うとどんなにいい言葉も只のジャイアニズムにしか聞こえないよ」 「ええい、兎に角 実家に帰らせてもらうわ」 「へえ、お前に実家なんてあったのか」 「田舎町には飽きたから都会に行こうと思う」 「その場合ここから三つ上の言葉は不適切だ」 「あーいやだ。子供相手に難しい言葉を使うなんて」 「お前子供じゃないだろう。というか俺よりも歳いってるんじゃないのか」 「れでぃーに何て事言うんだこのたわし!」 「え」 「あ、違う、たわけ!」 「………」 「まあどっちでもいいや」 「よくない。俺はあんな茶色くてごわごわした物体じゃないぞ」 「ああ。ひょろっちいもんな、お前」 「………で。どうして急に都会になんて行く気になったんだ。お前人間が嫌いだったろう、向こうはここよりもずっと人が居るんだぞ」 「ふん、そんなこと知ってるわ。伊達にお前より長く生きている訳じゃない」 「言ってることが無茶苦茶だぞ」 「放っとけ」 「はあ」 「まあいいさ。ほら、長い人生、気分転換も必要だろう?」 斑によろしくな。 それで気が済んだのか窓からひらりと飛び降りて、やっぱり見事に着地する。行きも帰りも全く以て賑やかな奴である。窓から顔を出してそういうことは自分で言うものだと言えば立つ鳥は跡を濁さないんだよとはたして意味が分かっているのか口の片端をくいと持ち上げた。 ──人は皆私のことなど忘れてしまって、お前が名を返してくれて、私を縛るものはもう何も無い。ああ、清々したよ。清々した。 レイコの孫、私はじき消えてしまうと思うのだ。お前に弱味など見せたくないからな。人間になど。さらば人の子。 さらば、夏目。 街の終わりに続く道 (夢の中で彼女はそう言っていつも通りふてぶてしく笑ったのだった) ** 企画。曰はく、さまに提出いたします。 |