ヒアシンスのにおいがして、引かれるように振り返れば、ビードロみたいな碧眼がこちらを見ていた。ブロンドの髪が西日と反射し目映い。目がちかちかする。手を上げ遮っていると、ふいに差し出される手のひら。指輪の宝石がきらりと光る。

「僕の手を取って。共に行こう」

向けられた明るい笑顔に流されそうになる。重ねかけた自分の手を咎めた。こうして幾人の女性を虜にしてきたんだろうな。しかし私はそうもいかないわけで。

「いいえ、行けないわ」

いつの間にか光は消えていて視界は驚くほどクリアだった。憂いを帯びた目が私を居抜き、行く手を阻もうとする。共に歩もうとする。あなたはもうひとりではないのだから。自分の脚で進まないと。

「・・・元気でね」

さようなら。ビロードで仕立てたお気に入りのドレスを翻し、扉に向かって歩いた。彼の青い耳飾りが悲しげな光を放つ。それを見ないフリをしてドアノブを回す。荒野に出たとき、暖炉にいたカルシファーが、「哀れだな」と呟いた。ああ、本当にその通りだ。




『日はく、』様に提出

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -