例えば出逢いが必然だったとして、繋がったその糸にどんな意図が織り込まれていたかなんて知る由もなくて、知りたくもなくて、それでも頭の奥底では理解していて。ああなんだ、簡単じゃないか。要するにそういう事なんでしょう?
「好きな奴がいてさ」
 夜も更けた談話室。二人がけのソファに並んで座り、他愛ない会話をしていたら突然そう言われた。
 いつもはジェームズのアホ眼鏡と子供みたいにふざけあっているくせにその時ばかりは真剣で、吸い込まれそうな灰色と、真一文字に結ばれた唇と、関係ないけどカッターシャツの間から覗く鎖骨に不覚にもどきりとしたのは事実。ついでに言うと腹が立つのは、マスカラでもつけてんじゃないのってくらい長い睫毛と、くせ毛のわたしに喧嘩売ってんのかってくらい真っすぐな髪の毛と、決してわたしには向けられる事も交わる事もない感情をこいつが他の誰かに抱いているという、事実。
「知ってるよ」
 爪の付け根にできたささくれをいじりながら投げやりにそう言うと、いつもは頭の回転が速いくせにこういう時だけアホになるこいつは、心底驚いたような顔をした。分かりやすいんだよバカ。
「いつから?」
「あんた分かりやすいからねえ」
 コロコロと喉で笑うと、困ったような顔をして笑う。ああほら、そんな可愛げのある表情とか、絶対にわたしなんかの前では出さないくせに、あの子が絡んでいるとなるとこれだもんなあ。嫌になっちゃう、いやまじで。
「そっか……そんなら話は早いんだけどさ、今度の土曜ホグズミード行くじゃん?」
 先程の真剣な表情から打って変わって、やけに楽しそうに話す奴の綺麗な顔をぶん殴りたい衝動に駆られたけれど、すんでのところで我慢した。不自然に浮いた腕をごまかすように髪へ持っていき、撫でるように手櫛で整える。ああうん、と適当に相槌を打っていたら、聞いてんのかよと怒られた。聞いてはいます。頭には入ってないですけど。
「でさ、うまい具合に取り持ってほしいんだよ」
 天下のモテ男が言うようなセリフじゃないなあ、などとぼんやり思って、自分から誘えばいいじゃんと言い放ったら、そんなのできたらとっくにしてるとまた怒られた。完全な八つ当たりだ。知らないよそんなの、知りたくもなかったし。
 自分から誘えるくらい自信があったら、あの子の友達であるわたしにわざわざ近づいたりはしないよね。
「協力してくれるだろ?」
 俺とお前の仲だし。いけしゃあしゃあとそう言ってのける奴の向こうずねを蹴飛ばしてやろうかと思ったけれど、やめておいた。これじゃあまるで負けを認めているようなもんじゃないか。何に対する勝ち負けなのかは分からないけれども。
「ごめん無理」
 笑いながら言うわたしの言葉に、奴の表情から笑みが消えていく。あ、少し怒ってる。理不尽だなあ、そんな自分勝手なお願いを断っても許される域だと思うんだけど。
「え、なんで」
「本当に好きなら自分で誘えば?」
 きっとあの子は奴が誘えば二つ返事で快諾するだろう。だって両想いだもの。奴もあの子も分かりやすいんだもの。気づいていないのは当人だけ、なんてフィクションだけの事だと思っていたけれど、案外現実でもありえるらしい。
 どう転んだってわたしに繋がる糸の先に奴はいなくて、もし仮に繋がっているものがあるとするならば、それは見せかけの出逢いの糸で。気になる子の友達からまず仲良くなろうなんて女々しい。女々しすぎる。
「回りくどいのよ」
「あ?」
 ぼそりと呟いた言葉はどうやらアホには伝わらなかったらしい。若干拗ねている奴の顔をちらりと眺めて、よっこらしょと立ち上がった。
「わたし、そこまでお人好しじゃないので」
 含み笑いをしながらくるりと回れ右をして階段を上ろうとすると、後ろから声が飛んできた。
「うまくいったら何かおごれよ」
 今度こそカチンときたわたしは、嘘くさい笑みを浮かべて言い返した。
「ふられちゃえばいいのに」
 奴の口が何か言おうと開かれたけれど、わたしは素早く階段を駆け上がって無視した。奴に繋がる糸を魔法で全て切り落とせればいいのに。

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