あたしね、と鼻にかかった、間延びした声で彼女は言う。みんなは彼女のそれを嫌いだと言うけれど、俺はそんなに嫌いじゃなかった。何だか、女の子らしい気がして。

あたしね、と彼女は続ける。窓の外を見ながら。大きい窓の外は、暗闇が広がっていた。いつもは賑やかなネオンも、喧騒も、息を潜めている。それが少しだけ綺麗で、不思議で、まるで、――世界の終わりを見ているみたいだと思った。

「志村さんが、泣きたくなるぐらい、好きなの」

窓の外を見る彼女。表情は見えない。これが恋なのかなあ、と続けて呟く。俺はそんな彼女を抱きしめて、そうかもねと言った。実際、俺も恋なんてよく分からない。
俺にとっての好きは、彼女にとっては普通かもしれない――そんな「程度」のことを考えたら、途端に恋愛というものが煩わしくなった。「程度」の違いで、喧嘩したり別れたりだなんて、そんなのはナンセンスだと思う。強い憧れはあったけど、きっと俺の恋は人じゃなくてサッカーなんだろうと決めつけて。

実際に、彼女は泣いていた。大きい真ん丸の瞳から、ぼろぼろといくつもの雫をこぼして。それを見て俺も鼻の奥がつんとなる。もらい泣きかもしれない。けれど、単純に、泣きそうなぐらいに俺が好きだと言った彼女を愛しく思った。瞬きするたびに落ちる雫を、綺麗だ、とも。

「泣かないで」
「志村さんだって泣いてるよ」
「泣いてないよ」
「ふふ、うそつき」

彼女が笑ったのを感じた。滲んでいた視界がクリアになる。ぼろ、と音を立てて落ちる涙。そうして気付く、「泣きたくなるぐらい」に好き、の程度が、一緒だったことに。

「俺もね、君が好きだよ。それこそ、もう泣いてるけど――泣きたくなるぐらい」
「……ほんとに?」
「ほんとに」
「……嬉しい」

彼女は泣きながら笑った。つられて俺も笑う。泣きながら笑う彼女を、綺麗だと思った。俺は彼女をもう一度、強く抱きしめる。
しんと静まり返った部屋の中で、彼女と俺の二人きり。いんいんと響く静寂、心音、匂いと温もり。全部を今、彼女と共有している。泣きたいぐらいに好きな女の子と。幸せだ、と思った。ただただ、そう思った。

窓の外に目をやる。未だに息を潜める賑やかなネオン、喧騒。暗闇。それも心地がいい、暗闇。街が眠っている。今なら世界が終わっても、怖くないと思った。

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