名前変換
「ねぇ鉄平くん、どっちの色のワンピースが好き?」
「白、かな」
「わかった!ありがとうっ」
可愛らしいレースのワンピースを持った彼女は、俺の言葉にふんわりと頷いて笑う。
俺は今日、彼女である名前さんの買い物に付き合っている。
部活でなかなか会うことが出来ないから、1日オフは名前さんの為に使うって前々から決めていた。
「この靴可愛い…」
「見る?」
ショーウィンドウを覗きこむその姿は実年齢より若く、いや、幼く見える。
俺より3つも年上なのに彼女はあまりそれを感じさせない。
まぁ、そこが名前さんの可愛いところなんだけど。
「で、でも……」
そう口ごもった彼女の視線は、俺の両手に掛かっている数ある紙袋に向けられていた。
「いくら鉄平くんが力持ちでも、悪いもん」
「大丈夫、普段から鍛えてるし、たまには彼氏っぽいことさせてよ」
子供のように唇を尖らせる名前さんに俺が笑いかければ、顔を真っ赤にさせて名前さんは服の裾を引っ張った。
「鉄平くんはいつもわたしの彼氏じゃん…」
あぁちくしょう。
可愛すぎる。
「どっちの色が可愛いかなぁ」
「こっちとこっち、あ、あとこれも!」
名前さんの買い物はいつも長い、というか時間がかかる。
欲しいものを見つければ目を輝かせてそちらへ飛んで行き、半分くらいは元の場所へ戻すのにも関わらず小さな身体でいっぱいいっぱい服を抱えて俺のところまで歩いてくる。
それがまた可愛いんだが…少し危なっかしくて、なかなか目が離せない。
「鉄平くんはこの色すき?」
踵のあまり高くないパンプスを鳴らして、名前さんが小走りで俺のもとへ駆けてきた。
似合う?や、いいと思う?ではなく「すき」か、とのこと。
…淡いピンクは名前さんを連想させるから好きだ。
俺は少し考えて目を細めて頷けば、彼女は「ありがとう!」と笑顔で会計をしにまた歩いていった。
「ふー!欲しいものいっぱい買えて良かったー」
「満足そうだな」
「うん!」
買い物を終えて喫茶店に入った俺たちは、ゆっくりと二人の時間を楽しんでいた。
「鉄平くん、ありがとう」
そう笑ってまたお礼を言う彼女の薬指には、俺が前にあげたリングが。
決して高くはないものだけど、彼女は気に入って毎日つけてくれているらしい。
幸せだなぁ。そう思って俺はまたカップに口をつける。
「鉄平くんとお買い物するとね、いっぱい迷うんだ」
照れ臭そうに笑う彼女は、心地好いソプラノで言葉を紡ぐ。
「鉄平くんはどんなのが好きかなぁ、とかいっぱい考えちゃって」
なんでこのひとはこんなに、
俺は色んな感情が込み上げてきて、抑えきれずにその気持ちを伝える。
「名前さん、好きです」
そう言うと一瞬びっくりしたように目をパチクリさせた彼女は、頬を薄桃色に染めて微笑った。
「わたしも、好きです」
その笑顔は、マリアのように美しい。
浮気性のマリア
企画、曰はく、さまに提出!
素敵な企画へ参加させていただいてありがとうございました!