※哀の続き

私の夢はいつも黒だった。ただただ広がっている闇をぼうっと眺めるだけ。それだけ。たったそれだけだ。幼いころ、母にぽつりと漏らしたことがある。初めこそ笑って済ませようとしたが、不満げな私を見て少し悩んだあと、飽くまで予想だけど、と前置きをしてこう言った。レム睡眠が少なくノンレム睡眠が多い、―つまり夢を見ないような深い睡眠ばかりで、浅い睡眠が極端に少ないのかもしれないと。(あなた、一度眠るとなかなか起きないものねと笑いながら付け足されたことは、今でもしっかりと覚えている。)当時は訳が分からないながらも納得したが、それは当てはまらないことに気づいた。夢を見ているから黒なのであって、夢を見ていないわけではないのだ。そう気づいたのは高校受験の筆記試験を受けている最中だった。






入学式日和とでもいうようにぽかぽかと晴れ渡る空の下、私は中庭を歩いていた。中学より広くなった校内に好奇心が疼き、こっそりと探検していたというわけだ。心地好い気候に自然と欠伸がでる。
ふと見やった前方の石段に、制服姿の男子生徒が腰掛けていた。反射的にやばい隠れなきゃ、と思ったのだが、目線が合ってしまった。固まる私を見て、目を丸くしている。見るからに先輩であろう彼が足早に近付いてきたため、さらに身を固くした。


「あ、す、すみま…」
「泣いていたのか?」
「……へ?あ、や、これはあくびで…」


下げていた目線を上げて心配そうなその表情を見た瞬間、胸の中で何かが溢れ出た。それは、あたかかくて、でもすこしだけ苦しくて――空いていた左手をきゅっと胸の前で結んだ。
堰を切ったかのように、雫がぽろぽろと零れ出す。


「っ…あれ、ご、めんなさい、…っ涙が、勝手に…」
「………っ、」


一瞬何が起こったのか分からなかった。左手首を取られ、ぽすんと音を立てて倒れ込む。回らない頭のせいでぼんやりとしていると、耳元で「泣かないでくだされ」と懇願にも似た声色で呟かれた。ああ、何故だろう、とても心地好い。告げてないはずの名前を何度も囁かれ、私は縋るようにその背中に腕を回した。








会い
(その日以来、闇色の夢は見なくなった)







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(101215)
(111224 // 加筆修正)

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