一見何の変哲もない団地。けれど一歩踏み入ればまるで別世界のような空気が広がる。華やかなロココ様式や尊厳なゴシック様式を合わせているその様子は、アンティーク調という表現がぴったりであろう。辺りを覆う薄暗い照明とどこからか流れてくる心地よいピアノの音色、窓から見える新月の空がこのどこか浮き世離れした雰囲気を誇張している。

その中で今まさに行われようとしているちょっとした儀式。場に似つかわしくない小さな影がふたつ、ぼんやりと照らされ佇んでいた。



「かならずや、……」
「…っうん、やくそく、だよっ」



情けない笑みを浮かべる双方の眼。そこにはゆるゆると水の膜が張っていたが、溢れることは決してなかった。幼い二人は、何の確証もないこの約束事は必ず叶うのだと、果たすことができるのだと信じて疑わなかったのである。

明け方、少女は同じ髪色をした女と全く似ていない男に連れられていった。未だ夢に落ちている二人を繋いでいた小さな小指が、するりと離、れ、――











「今日はこの夢か…」

けたたましく鳴り響く時計を黙らせた。近頃よく見る夢は、今日見たものを含め二種類あった。もう一方は先ほど見た夢にも出てきていた少女とよく似た女とまた何か約束をするものである。あまりに朧気で断片的なそれらに共通するのが約束、そして泣きそうな顔だった。何故か痛む胸に自然と手のひらを当てる。

―彼女は、どうすれば笑ってくれるのだろうか。


「…ふ、…たかが夢であろう…」


自嘲めいた笑みで口元を歪ませば振り切るように自室の扉を開いた。









(せめて、その涙を拭うことができたなら)







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(101016)


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