※死ネタ





「何故てめぇがここにいる?」
「お人が悪い。…分かっておりましょう?」
「……狙いは…政宗様ではない、か」

持っていたクナイの先を彼に向けた。上手く無を纏えている自信はなかったが、ぴりぴりと感じる殺気にちゃんと敵と見做してくれたのだと安堵した。
抜かれた刀をこちらに向けないのは、彼の優しさか。―なんて、自惚れも甚だしい考えに思わず浮かんだのは自嘲。目の前に立っている人がこの笑みをどう受け止めたのかは、眉間によった皺で分かる。煽るように口元をさらに歪めれば地面を軽く蹴った。

「……なっ」

視界が赤に染まった。








女中として、間者として過ごした月日はあまりにも幸せだった。日に日に短くなる陽は、別れの時が迫っているのだと教えてくれた。
しかし、もう何もかも遅かった。忍として、影として、最も抱いてはならぬ感情を私は知ってしまったのだ。しかも、その相手は任務対象ときた。
どうすればいいのか分からなかった。全てを明かしてしまいたかった。縋りたかった。けれど、私にはくだらぬ自尊心があった。今まで奪ってきた命の重みもあった。そう、道は最初からひとつしかなかったのだ。








地面を蹴り、懐に入り込むふりをしてクナイを放つ。――様子を伺っていた仲間の忍に向けて。僅かに聞こえた呻き声に絶命したことを知る。
ああ、私もすぐに後を追うことになるだろう。ようやく向けられた切っ先に全神経を集中させた。

溢れ出す命の色と、遠のく意識。最後に感じたのは、抱きすくめられるような心地よさだった。







最初で最期の我が侭
(貴方の手で眠りにつきたかったのです)










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(101021)


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