「にぃ」

寒い、と呟いた声は自分でも驚くくらい小さかった。震えが止まらない。もう少しご主人を探していたかったけれど、これ以上続けるのは得策ではないだろう。今日はもう寝よう。雨が凌げる場所まで移動したかったけれど、体がうまく動かなくてしょうがない。近くにあった大きな木の下で丸まった。ああ、おなかがすいたな。最後に食べたのはいつだっけ。雨脚が強まった。なんだか眠い。地面を定期的に叩く雨音が、子守歌のように心地良くて。葉っぱで溜まった大きい雨粒が時折思い出したかのように滑り落ち、わたしの体を叩く。
不意にそれが止んだ。目の前に立つ人影に首を持ち上げると、ご主人とは似ても似つかわない強面の男が眉をひそめていた。

「…子猫か」

屈んで喉元を撫でてくる。冷え切っているわたしの体よりあたたかなそれ。久々のぬくもりに目を細めた。





冷たい雨の降る夜に、真っ黒な子猫を拾った、震える小さな小さなそいつを両手で抱き上げたのは、ほとんど反射だったように思う。迷子か、それとも、捨てられたのか。――目を閉じすりよるその首には何もなかった。

「…にい」

か細い鳴き声をと共に、顎を撫でていた指をはむ。少しごわついた毛なみから滴る雨水をハンカチで拭きながら、家路を急いだ。








雨の子守歌
(幾重にも重なり響いていく)










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(111224)


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