時間が進むにつれいつもより饒舌な名前との会話も弾み大分この性格にも慣れてきた。笑顔が絶えないいい事じゃないか。

けど、でも、何か、何かが違う。

いつもの名前じゃない事になんの不満があると言うのだろうか。可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて、ただそれだけ。嫌がられるとことも怒られることもない。今のこいつとセックスする事だって出来る。ちゃんと愛を向ける事も出来る。けど、きっと何かが物足りない。その瞳が熱く溶けるには違いないんだろうけど。痛みを我慢して悲痛な表情も浮かべるのだろうけど。快感に身を震わせるのだろうけど。黒い瞳も長い睫毛も白い肌も柔らかな身体もシャンプーの香りも俺を呼ぶ声も同じなんだろうけど。それは彼女であって彼女ではないんじゃないか、と。もしかしたら俺はおとなしくて可愛い彼女じゃ物足りないのかもしれない。

(いつから俺はドMになったんだよ…)

「…名前?」

「ん?何?」

違うんだ。決定的な点じゃなく、どこか不確かな点で相違していて、矛盾していて、現状に対応しながらもいつもの彼女は何処へ行ったんだろうと心の隅で考える自分がいて。

「俺の事好きか」

「す…好き…よ?」

「したい」

「え?なっ何言ってんのシリウス!」

「いいから」

「でも…!」

かたくなに拒否する名前の、彼女であって彼女ではない誰かの、いつもと同じ唇を塞いだ。





あぁどうしたら彼女が戻ってくるのだろう。




「……あれ…」

朝起きたら名前が隣りで眠っていた。そのまましちゃったんだっけか。
なんてまだボーっとする頭で考えていた服を着ようとベッドを降りた瞬間もぞ、と名前が動いた


(ああ…そういえば)

「起きたか名前」

前髪をかきわけ昨日と同じ様に額にキスをした。しかし昨日はずいぶん可愛いかったな。なんて思いながらやはり物足りないと思ってしまうのだけれど。

「……うるさいなぁ」

「………………………え?」


我が耳を疑った。昨日俺の下であんなに可愛く鳴いていた声と同じだとは到底思えない、機嫌の悪そうなでも聞き覚えのある…。

「……名前?」

「私が寝起き悪いの知ってるでしょう・・・」

昨日の面影は全くない気怠い声に、皺のよった眉間。

「名前…お前!」

「もう何!?さっきからうるっさいなぁ」

もそ、と名前が布団から這い出る

「戻ったのか…?」

「はぁ?何が…ってなんであんた私のベッドにいんのよ!?」

「いやここ俺のベッドなんですけど胸倉つかまないで下さい…じゃなくて!何がって…昨日あんなに…」


覚えていないのだろうか。可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて彼女ではない彼女を。やっぱり抱きしめた感触や温もりが変わることはなかったけど、一瞬いつもの名前じゃなきゃだめなのかも。なんて、柄にも無いことを考えさせられてしまったそんな彼女を。なんて考えていたら。

「ジェームズ達にもらったお菓子食べてから記憶がないんだけど…どういうことよ」

げしっと一発、俺の腹に蹴りがとんできた。…なんか考えるのが馬鹿らしくなってきたな。というか、少し考えたらあいつらの仕業だってことくらいわかっただろうに。冷静に対応しているつもりでも、やっぱり昨日の俺はそんな判断が出来ないくらいに動揺してたらしい。昨日の自分の状態を知ったらこいつ俺と自分に忘却呪文かけるなとか考えてたら、なんだかくつくつと笑いがこみ上げてきた。だんだん不機嫌になっていく名前をよそ目にいつも通りの名前だと、なんだか幸せだと感じてしまった。











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