ダイアゴン横丁で懐かしい人影を見た。あの育ちすぎたこうもりみたいな姿を見間違えるはずがない。黒いローブにぞろっとした黒髪、それに、あの思わずさわりたくなる高い鼻は、スネイプだ。
卒業してからこちらに来る事は少なかった。リリーとジェームズの件があって以来、なんとなく思い出の地に足を運ぶのを避けていたのだ。必然的に、学友にもたまに梟を飛ばす程度で、あまり会う事はなかった。彼なんか、特にだ。卒業式の日に、これでもう会う理由なんかないなと鼻を鳴らされて以来、会っていなかった。
人ごみをすり抜ける様に上手く進んでいくスネイプ。相変わらずだなと、干渉に浸る暇もなく、ついていくのがやっとだった。久しぶりに来たというのに、身体はきちんと町の構造を理解していた。石畳の感じや、店から立ちこめるおかしな臭い。あの角を曲がれば人通りが少なくなる。
人が途切れた所で手を伸ばして、黒いローブの袖をひっしとつかんだ。瞬間、思いっきり振り返った彼に腕を払われた。
「誰だ」
「久しぶりの再開なのに失礼ね、私よ」
「…名字?」
私の顔を見て目を見開いたスネイプ。こんなに眉間にしわあったかしら。
とりあえず、近場の喫茶に適当に入って少し話すことにした。
「何年ぶりかしら」
「卒業して以来だ」
「まさかスネイプがホグワーツで教鞭とってるなんてね。どの面下げて生徒相手にしてるのかしら」
「貴様は相変わらずだな」
「あなたもね」
久しぶりの再開に、会話がはずむなんて事はなかったけど(だってスネイプが相手だし)、昔とかわらないこの感じが心地よかった。学生時代は寮もお互い違っていたし。私が一方的に話しかけていただけだけれども、仲は良かったと思う。というか、彼の事が好きだったのだ。今更伝える気もないのだけれど。脈なんて学生時代から感じた事もなかったし、何も伝えずに終わってしまった。もう何年も、その感情はしまっていた筈なのに。ただやっぱり、会うと懐かしさや、愛しさやが蘇ってしまう。だけど、好きという感情だけで生きていける様な年ではなくなってしまった。少女の様に追いかける勇気なんて、もう持ち合わせてなかったのだ。
「そろそろ戻る。ダンブルドアに頼まれている用なのでな」
「そう。校長先生元気?」
「小憎たらしい程にな」
「相変わらずなのね」
「ああ…………」
帰ると言って、一向に席を立たないスネイプ。どうしたのだろうか。早く行ってくれないと、名残惜しいなんて思ってしまうからやめて欲しい。追いかけることは出来なくても、きっかけくらいは作れないだろうか。なんて、学生時代の自分がすでに頭の中で囁き始めていた。
「あの」
「おい」
同じタイミングで話しかけてしまって、スネイプが苦々しい顔になった。
「…………」
「何?」
「お前こそ何だ」
「先に言ってよ」
スネイプは深いため息の後、先程よりも苦々しい顔をして口を開いた。
「…また、こうしてお茶してやってもいい」
「…どういうこと」
「だから」
次はいつ会えるんだ。そう言ったスネイプの耳が少し赤くなる。照れている時の癖が、学生時代からかわっていないみたいだった。くすりと私が笑うと、眉間のしわが増えた。「でるぞ」と、伝票をひったくって足早にでていってしまった。もしかしたら2人とも年をとっただけで何もかわってないのかもしれないと、そう考えてしまった。とりあえず、入り口の扉で機嫌が悪そうに待っている彼をからかってやろう。昔の様に。
title by蘇生