(今なんて言ったんだい名前) (聞こえなかった?ならもう一度言おうか?)
(…いや、もういい)
(そうですか)
(君の顔も見たくない)
(…こっちのセリフよ)
と、盛大にリーマスと喧嘩をしたのが今日の朝食のときのこと。本当に些細なことだった。リーマスが知らないハッフルパフの子と話してたのが嫌で、悪態をついてしまった。今考えたら本当に自己中で、最低最悪だ。 一刻も早く仲直りしなきゃ。って思ったのが夕方。あんなにムカついてたのに。私リーマスがいなきゃ駄目なんだなって改めて実感してしまった。そして決心がついたのが就寝時間が間近に迫った今。早く謝って、早く仲直りしよう。 ハウスエルフに手伝って貰った手作りのチョコレートケーキを手に持って、きっと談話室のソファーに座っているだろう彼の元へ。ジェームズ達が気をきかせてくれたから、中には他に誰もいないはず。合い言葉を言って、寮内に入ると、本を読んでいるリーマスの姿が見えた。
「あの…リーマス…」
「…………」
「今日はごめんなさい、その」
「…………」
リーマスは聞こえてるはずなのにこちらを見向きもしない。ずっとこちらに背中を向けたままだ。リーマスの視界に入れないだけで、こんなに辛いだなんて。
「あの、ね、お詫びにチョコレートケーキ作ったの」
返事はなく、ページを捲る音だけが談話室に響いた。まるで私なんかここにいないみたい。もう嫌だ涙でてきそう。でも泣いちゃだめだ。傷つけたのは私。私の勝手な嫉妬心でリーマスに酷いことを言ってしまったのだから。
「食べやすい様に切り分けるね」
そう言ってあらかじめ持ってきたお皿に、切り分けたチョコレートケーキをのせる。リーマスの所へ持っていこう。そう動いた私の肘が机におもいっきりぶつかった。
べしゃ
汚い音を立てて、ケーキが皿から床へ落ちた。まだ切り分けた方でよかったのだけど、でも、取り返しのつかない事をしてしまったように思えて酷くショックだった。絶対に失敗してはいけなかったのに、きちんとリーマスに謝らなくてはいけなかったのに。そんな気持ちでいっぱいだった。
「ご、ごめんね、今片付けるから、汚いね」
ぽたりぽたりと涙が床に落ちた。雫がじわりと絨毯に滲む。泣いてはいけないのに、我慢しきれず、次から次へと涙が溢れてきた。何でこうも上手くいかないんだろう。今朝だって、可愛らしくヤキモチを焼けばそれで済んでいたのだ。それを、汚らしい嫉妬心をむき出しにして、リーマスにぶつけてしまった。すぐに謝ればよかったのに、自尊心が邪魔をして出来なかったのだ。全て自業自得だけれども、なにもかももっと上手く出来ればよかったのに。 食べて貰えたかはわからないけれども、自分なりには上手に出来たケーキだった。見るも無惨な姿になってしまったけど。ひとまず片付けようと、杖を取り出した右手をつかまれた。リーマスだ。
「リ、マス?」 びっくりしすぎて、上手く発音出来てなかったかもしれない。見上げたリーマスの瞳は酷く悲しそうで、私はすぐに顔を背けてしまった。
「僕、本当に傷ついた」
「…………」
「名前に、あんなこと言われて」
「うん」
「もう喋りたくない、顔も見たくないって思った」
「…………」
「でも、やっぱり、君が近くにいないと駄目みたいだ」
その言葉に再びリーマスの顔を見ると、困ったような、笑ったような顔をしていた。1日顔を見なかっただけなのに、何だか久しぶりに感じてしまった。
「名前に酷いこと言われたことより、名前ともう話せないって事のほうが、悲しかった」
こうしてジェームズ達の仲直りのお膳立てにものってしまったしね。なんていって、リーマスは私を優しく抱きしめた。ああもう涙止まらないよ。
「ごめんなさい、リーマス。酷いこと言って」
「僕も酷いこと言って、ごめんね」
「意地はって、謝らなくて、私あの子が羨まし、くて」
「ああ、もういいよ」
リーマスが指で私の涙をぬぐった。
「仲直りだ」
「うん」
「あのケーキ、僕にでしょ?一緒に食べようか」
「あっなら、こっちのきれいな方を」
「上の部分は食べれるだろう。せっかく名前が作ってくれたんだから、全部食べるよ」
「なら元に戻せば」
「魔法は使わないで、そのままでいい」
そういってリーマスはフォークとナイフで器用にケーキをすくいとり、汚れた床にだけ呪文をかけた。
「これでよし」
「うん。リーマス」
「なに?」
「ごめんね」
「まだ謝るの。もういいよ」
「でも」
「いいって、ほらこうしてるとまたケンカになる」
「それは嫌だ!」
「僕も。だから、早くケーキ食べよ」
「うん」
実を言うと、ヤキモチやいてくれたのは嬉しかったんだ。なんて耳うちされて、ケーキをおもいっきりリーマスの顔に吹き出しそうになったのをこらえた。またケンカになるなんて、たまったもんじゃないもの。
幸せを噛みしむようにケーキを味わった。リーマスと一緒に食べたチョコレートケーキは、なぜか普段の何倍も美味しく感じられた。
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