臭いがこびり付いて離れない。
 血生臭い臭いが船を充満する。早く宝を探して戻りたい。自分から自分以外の血の臭いがすることにレイリーは耐えられなかった。



 舌打ちの一つもしたくなる惨状を見て思わず苦笑した。
「やりすぎだ」


後ろから聞こえてきた声に振り向けば剣で死体を避けながら歩いてくるロジャーの姿があった。
白いスカーフに模様を付けている赤は自分のではないのだろう。転がる死体を丁寧に避けながらレイリーの横に立つ。
「不殺生、という言葉がこの世にはある」
「…何甘いこと言ってるんだ」
「度が過ぎてるってことだ。何をそんなに苛ついている」
「苛ついてなどいない」
「……そうか。ならいい早く宝でも何でも探して帰ってこい。俺はここにいる」
階段に腰かけ腕を組む。
その姿を見ながらレイリーは船内に進んだ。

 しばらくすると馬鹿でかい宝箱を抱えてロジャーの前に姿を現した。宝箱を足元に置き腕にかけていた金細工の鎖をロジャーの首にかけると、満足そうに笑う。
「あんたに合わない金はないな」
「……、結構なもんじゃねぇか。商船から奪ってきたもんか」
「さぁな。趣味がいいってとこは同意するが」開けた宝箱に詰め込まれたいくつもの宝に思わず笑う。
「相変わらずの目だな。久しぶりにいいもんじゃねぇか」
「気に入ったのがあれば先に選んでくれ。残ったのを換金する」
「これだけで充分だ、後は宴の足しにでもしようじゃねぇか」
「相変わらずだな」
首にかかった鎖を弄りながらロジャーは笑う。細くも太くもなく丁度いいサイズのそれは光に反射して一層輝きを増す。
座っているロジャーを跨ぐように上に覆い被さり肩を抱く。首元に顔を埋めて匂いを嗅げば鉄独特の匂いが鼻をついた。
「……」
「……」


鼻で笑った後、後ろに流している髪を掴みクシャリと崩せばレイリーが顔を上げる。
眉間に皺を寄せて笑うロジャーの顔が目の前に広がっていた。



「不安定だなお前」
「……かもしれないな」
「何をそんな考えてるかしらねぇが抱えすぎんな。少しは頼れ」
「お前より軽いもんだよ」
「感情に重さなんてねぇっ!?」
頭を抱き自分の唇を押し付ける。


 見つめてくる目に捕らわれたのかもしれない。元々その目に私は弱いのだ。

 ここが階段だということも忘れそのままロジャーを後ろに押し倒し咥内に舌を推し進める。
呻き声がするがロジャーのではないだろう。まだ息がある奴がいたのか。そんなことを考えていれば苦しいのか腕を叩かれる。が、緩める気はない。
酸素を求めて開いた口にすかさず噛み付けば押し返すようにロジャーの舌が口を触れる。
それを私の舌でなぞればざらついた感触と苦い味が口に広がる。これこそ求めていた物なのかもしれない。
逃がすまいと頭を抱く腕に力を入れてより奥に自分の舌を推し進めれば腹を蹴られ続けて右足の臑を勢いよく蹴られ、声にならない叫びと共に私はその場にうずくまった。

「俺を口説くなら場所は敵戦意外ってことを覚えておけレイリー」
「……っ」
「それとな」
見下すような目で見ていたロジャーは階段下でうずくまる私に手を差し伸べる。ありがたくもその手に掴まれば勢いよく腕の中に抱き込まれる。


「これは気に入ったからさっきのが礼だ」
ニヤリと笑われれば腕から解放される。これとはおそらく首にかけた細工のことだろう。あんなもんで機嫌が取れるならいくらでも探してきてやるというのに。

 少しよろめく私の隣を颯爽と抜けロジャーは向かいに構える母船に向かう。
そんなロジャーの足を掴もうと屍の中に構えている名も知れぬ海賊に銃弾を打ち込めば振り向きもせずに笑った。



「上出来だ、相棒!」
ずしりと重い宝箱を抱え俺も船を後にする。
海風が船を滑るように流れる。
充満する血の臭いが鼻を掠め、そういえばロジャーの首で嗅いだ匂いが一緒だったような気がして笑いが込み上げてきた。


財宝も血も同じ成分とは、世も狂っている。







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