なぎ倒されている男を跨いで海に向かって歩いていれば、気がついた様にレイリーがロジャーに手を挙げる。
「騒がしかったか?」
「いや、そろそろ船に戻ろうかと思ってな」
「そうか、それは邪魔をした、なっ」
向かって来た男を撃ちロジャーに道を空ける。残り少ないとは言い切れないが既に勝利はレイリーに傾いている様に見えた。
「強いな、お前」
「何、一応これでも船長だからな」
「そうか!でもまぁ、こっからは俺に任せてくれねーか?まだ奢りの礼をしてねぇんでな」
嬉しそうに笑いながら背後から向かってくる剣先を軽くかわし腰にある剣を抜き取る。
酔っ払いとは思えない軽やかさと的確さに目を奪われる。

「それと、俺も海賊だ」
名も知らない人間と交じわす剣にその真っすぐな瞳が揺れ動く。
横にいるレイリーを守るかの様に構えるその姿に呆気にとられたのは言うまでもない。
回転するかの様に動くその剣は的確に急所だけを狙う。


「まだフダつきでも何でもねぇけどよ」
「お、おう」
「強さならてめぇが保証する」
付いた血を払う様に一振り剣を宙に振り落とす。その先にうっすらと昇る日が見えた。




「俺はゴール・D・ロジャー、ロジャー海賊団船長だ」




誇らしげに言われるその名は遠くの海で耳にした物だ。
海賊なのに誰よりも仲間の死を悲しむ腰抜けだと、誰かが笑っていた名だ。
誰よりも強く、誇り高い海賊だと話す誰かもいた。


「そうか、そうか…!」
笑いながらレイリーは手を伸ばす。
「会えて光栄だ、船長殿。俺はシルバーズ・レイリー、海賊団船長だ」

伸ばされた手に軽く自分の甲をぶつける。
その顔は満足そうに笑っていた。






「レイリー。お前、海に何を求める」
随分と歩いたと思えばそこは既に船の近くだった。
店から持ってきたのだろう、酒瓶の1本をレイリーに渡しながらロジャーは座り込み海を見る。
朝日が昇る海は波に反射し、どこか白に近かった。



「そうだな……俺は世界の果てを見たくて海に出たんだ。財宝は二の次で構わない、この目で世界を見ることに意味があるんだ」
「そりゃあすげぇ夢だ。しかし好都合だ。俺の船に乗れ、レイリー。自由と冒険を約束しよう」
笑顔で伸ばされた手に迷いはなかった。
話しを聞いた時からこの人の船長に会いたかった。話しの中で広がる自由で気侭な船長に惚れ込んでいた。
ロジャーの目に奪われていた、真っすぐに遠くを見ているその目に。
味わった、誰かが言っていたロジャーが誰かを守るという誇り高い行為を。
クルーには悪いが、この人と共に海に出るなら船長という肩書きぐらい捨ててやってもよかった。
海賊は欲しい物には貪欲で強欲なのだ。
代価と共に手に入れるのはそれ以上の物しかいらない。
「それはありがたい申し出だな」


「この命、預けてみようじゃねぇか」
「任せておけ。お前んとこのクルーも連れてこい、乗りたい奴は全員守ってやる」
「それは頼もしい船長だ」

「あぁ、俺はゴール・D・ロジャーだからな」
満足そうに笑うロジャーと朝日の中、祝杯を上げた。






この海を支配するには自由が必要だ。

誰よりも、自由に。











・・・・・・・・・・・・
捏造したくないけどこの2人の出会いが気になって気になって、ということで書いてしまいました。
本誌の展開が分かるまでの妄想ってことで。

太陽が地平線より上に昇る直前の薄明をブルーアワーというそうです。
海の色。


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