日が沈む海は燃えるようで、日が昇る海は白い光に包まれる。
荒い波があればそこを突き進むロマンがある。
命をかけるか、己の強さを信じるか。

海は広い。
溢れるばかりの光ですらその先を全て映し出すことは不可能だ。
その海を支配するにはいくつの代価と少しの






「……」
風が強い島に降り立つ海賊船船長。
少ないクルーと共に航海するその男は手配はされずとも一部の人間には知れ渡った厄介者。
半端ではない強さとよく切れる頭。
クルーになるだけでも名誉なことだと噂をされていた。





「ロジャー船長ー今日は船に帰ってくんですか?」
「あぁ気向いたら帰るぜ。出航は明日の夕方だ、伝えておけ」
酒場で呑んでいるロジャーの元にきたクルーは飲み過ぎだけは勘弁して下さいよ、と笑いながら店から出て行く。その後ろ姿に軽く手を振ると再び飲み直す。
日中から一緒になって飲んでいたクルー達も既に酒場に残っている者は少ない。追加の酒を頼めばカウンターに座り新聞を読んでいる店主が迷惑そうに顔を上げる。と、それと同時に店のドアが開いた。
「……まだやっているか」
金髪で長身という目立つ出で立ちのその男は店を見渡すと、カウンターに向かい袋を置く。
音からして大量の金貨が入っているようだ。袋を覗き込んだ店主はロジャーより先にカウンターに座った男に酒を出した。
「悪いな。何、あまり長居はしないさ」
「それは助かる」
すぐに飲み干した男に次の酒を出す。それを受け取ると近くに座っていたロジャーに今気づいたかのように顔を向けた。
「なんだ、先客がいたのか。これはすまない」
「いや、気にすんな。俺も意識が飛んでたんでな」
「……1人か?」
「いや、船に仲間がいる」
「奇遇だな。俺もだ」
「この島に寄るのはだいたいがそうだろ、野暮なことは聞かない。どうだ、一杯付き合ってはくれないか?」
「丁度暇していたところだ。付き合うぜ、俺はロジャーだ」
「シルバーズ・レイリーだ、今日は俺の奢りにさせてくれ」
それを聞いてロジャーが笑うとレイリーはジョッキを掲げる。
お互いジョッキをぶつけ、酒を煽った。





ロジャーが話す話しはどれもが興味深い物だった。まだ海に出て間もないようにも思えるが数々のことを経験しているように感じた。
きっと船長がいいのだろう。笑顔で話すロジャーの瞳に迷いは無かった。
「それでな、サイクロンを抜ける時に俺の船では宴をするんだ」
「それは命知らずだな。誰もが帆を張るので精一杯な時に」
「自然にはどう抵抗してもかなわないからな。身を任せるしかねぇのさ」
豪快に笑いながらロジャーは話す。
歳はあまり変わらなさそうなのにどこか子供っぽいその顔に思わずつられてしまう。
「お前の船の船長は無鉄砲にもほどがあるな」
「そうかもな」
お互い笑いながら既に何杯目か分からない酒を煽る。
既に店主は夢の世界に旅立っているのでカウンターにある樽から自分達で注ぐという強硬手段だ。
溢れるばかりの酒に口をつけながらロジャーは口を開く。
「レイリー、お前は海に出て何年になるんだ?」
「俺か?そうだな……ざっと5年は海にいるな」
「5年か……俺よりも長く海にいるんだな。なんか面白れぇことのいくつかはあったんじゃねーのか?」
「そうだな……面白いと言えば歌う海賊団に会ったな。戦闘よりも音楽を好んでいるような海賊達だった」
「へぇ、音楽家の海賊とは景気がいいじゃねぇか」
「そうだな。……海は広い、きっとそれ以上に珍しい海賊団も現象も島もあるんだろうな」
「……だろうな」





静かに時間が流れて行く。
無言でもあまり重い空気にはならず、お互いに酔っているからかもしれないがこの空気が心地よかった。
腕に付けられたログポースを見つめていたロジャーがレイリーの方を向く。
「俺はな、」
タイミングよくロジャーの言葉に被せるかの様に店のドアが開く。
それは開くという表現からほど遠いほど乱暴な開け方で、その足で蹴りましたとばかりに入り口には足を上げた男が立っていた。
「レイリー!おめぇがこの島に乗り込んで来たとは好都合だ!その首置いてってもらおうか!」
男の言葉と共に店内には数十人が慌ただしく入ってくる。
特に動揺もせず、入って来た男達を見ると残っていた酒を飲み干しレイリーはゆっくりと立ち上がった。
「どこから情報が漏れたんだか……悪いなロジャー、こっちから誘っといたのにここまでのようだ」
「人気者みてーだな?手ぇ貸すか」
「いや、貸しは作らない主義なんでね。楽しかったよ、お詫びと言ってはなんだが騒ぎは外でやろう」
「そうか。俺も楽しかったぜ、またどこかの海でな」
「あぁ。次はあんたの船長にも会ってみたいな。今度話しの続きを聞かせてくれ」
「ははっ!任せとけ。きっと船長も喜ぶぜ」
レイリーは取り出した拳銃を上に向け一発撃つと、それに動揺した首謀者の男の腹に蹴りを入れ外に飛ばす。
片手を挙げ店から出て行くとあっけにとられていた男達が蝿の様に外へ群がって出て行った。


再び静かになった店でロジャーは残っている酒を煽ると頭を机に預ける。
店主の寝息を消すような外から聞こえてくる乱闘の音に口元が上がる。
「つまんねー奴。まだその金貨分呑んでねえじゃねえか」
立てかけておいた剣を腰に刺し立ち上がる。
ログは真っすぐに伸びていた。










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