少しした思い出



少し、考える時間があった。それは何十年も前の記憶。
木々が無造作に倒れていく様子を見ながらレイリーは近くにある岩に腰掛ける。
修行相手なんて久しぶりだ。



「いいかレイリー、お前は覇気が使える。剣も使える。ならば鍛えるのは武装色だ!」
「突然何を言い出すんだロジャー。分かりきった事だろう」
本を片手に部屋に入って来たロジャーはどこか満足そうな顔でレイリーを指さす。タイミングよく剣の手入れをしていたのがまずかったのかもしれない。
磨いていた剣を反射させながらレイリーは顔を上げ、眉間に皺を寄せて真夜中の訪問者を冷ややかな目で見つめる。
「そもそも覇気なんてお前も使えるだろう」
「武装色はさっぱりだ。だがお前は違う、鍛える事が出来るはずだ。俺の計算に狂いはねぇ」
「落ち着けロジャー、何があったかは知らないがそう簡単に鍛えられる物でもないだろう?それにここは船の上だ。下手に力を使っては他のクルーに影響が出るかもしれない」
「だったらお前を降ろす。どっかの無人島に行って修行してこい」
無茶な話しだがロジャーは本気で話しているらしい。
とりあえず椅子に座らせようとすれば遠慮もなくベッドに腰掛けて足を組む。
その振動で片手に抱えていた本からバラバラと紙が落ちていった。どうやら古書らしくロジャーが強く握る度にその本は崩れていく。


「俺が師匠だ」
何故だか勝ち誇ったかのような顔をしてロジャーは床に座るレイリーを見下ろす。
「……ロジャー、それが言いたかっただけではないだろうな」
「先生でも構わないぜ。なぁレイリー、お前はもっと強くなるべきだ。船長を超えてこその副船長だろ?」
「分かった、分かった。何、1週間ぐらい耐えられるさ。で、迎えに来てはくれるのか?」
「あぁ。もしお前が死んでいてもちゃんと骨は拾ってやるから安心しろ」
「そうか、ならば安心だ」
ブーツを脱ぎながらロジャーは顔を上げる。どうやら今日はここで眠るらしい。ということは今の船長室は限界を迎えたという事か。
散らかるという次元を超えた部屋を思い溜め息をつく。
勉強することはいい事だが、片付けが全く出来ないというもののも考えものだ。


「あぁ、後な、ガキも連れてけ」
「シャンクスとバギーか?」
「んや、バギーは俺が面倒見る。あいつおもしれーんだ」
「シャンクスに剣の稽古をしろと?」
「稽古じゃねぇ、鍛えてやれ。甘さはいらない。俺のを防げるぐらいにまで育ててこい」
「そりゃぁまた無茶な」
「お前なら出来るだろ、レイリー先生」
そう言ったロジャーは笑いながらベッドに倒れ込む。
少しすれば寝息が聞こえてきた。しばらく徹夜していたのだろうか、起きる気配はまったくもって感じない。
磨き終わった剣を床に置き朝焼けが見えるまで船長室を片付けるか、仮眠をとるかを考え、レイリーはロジャーを壁側に転がしベッドに潜り込んだ。





「2年も相手をしていたら少しは私も強くなるかもな」
未だに超えられないだろう船長を思い出し、レイリーは笑った。



2010,9,1