「手伝うこと?」

「…何か、ないか?」


夕飯を終えて一息ついていたら、お風呂を上がって来た長次がそんなことを言った。長次は順応性が高いというか賢いというか、お風呂をすぐに覚えてくれた。シャワーもシャンプーもリンスまでも完璧だ。今日買ったばっかりの部屋着もバッチリ着こなして水が滴る髪をタオルでガシガシしている。


「なんで?」

「…世話になるだけでは、申し訳ない」

「…とは言っても…」


この家の手伝いと言えば炊事・洗濯・掃除などなど。掃除はともかく料理はコンロとか解らないだろうし洗濯も洗濯機が解らないだろうし、私の洗濯物を触らせる訳にはいかないし…。1番いいのは掃除だろうか。でも掃除する程汚れてる訳ではないしなあ。うーん。何かいいのはあるかなあ…。てゆうか長次ってほんと低姿勢だね。年下なのに感心しちゃう。


「よし、長次にはゴミ捨てを頼もう!ゴミ捨て場が少し離れたとこにあってさ。重たいゴミの時は大変なんだよね」

「…それだけか?」

「へ?…お風呂掃除なら解るよね。お願いしていい?」

「他には…?」


よ…欲張りだな。いつもは謙虚なのに。他にはー…何も無いんですケド。料理は無理だろうし、洗濯は任せられないし。てゆうかこれ以上任せたら私が申し訳ないんだけど。でも長次は一歩も引かぬ、みたいな感じで私をまっすぐ見つめてくる。うーん、と悩む私の脳裏に浮かんだのは、一輪の花。


「…朝顔に水やりが日課だったよね?」


少し驚いたような顔をして、コクリと頷いた。


「妹が朝顔育ててんの。水やりを頼まれてるんだけど私忘れそうだから…いい?」

「…それでいいのか」

「料理と洗濯は私だから。なんなら決まり作る?」

「決まり…」

「その一、おはようおやすみを言う!その二、ご飯は一緒に食べる!その三…さん…何かある?」


さん、の指を立てたのはいいけど思い浮かばない。視線を向けたら長次は首を横に振った。


「…わざわざ、すまん」

「…あった。その三!」

「っ、?」


長次の鼻先にさんの形の指をずずいっと近付ける。長次はびっくりしたように軽く体を反らした。目をパチパチさせている。うん。私ずっと気になってたんだよね。いつか違う言葉が聞けるかと思っていたけどいつまで経っても変わらないし、この際決まりに捩込んでしまおう。


「嬉しい時はありがとう」

「……」

「すまん、はナシ」


長次はすまん、しか言わないから気になってたんだ。やっぱりありがとうって言われる方が気持ちいいし和らぐ気がする。親指と人差し指で輪を作ってオッケー?と笑って見せたら「桶?」と言われてしまった。ボールとアタックは解るのにオッケーは解らないのか。まあ室町で横文字が出て来ること自体可笑しいんだけど。説明したらコクコクと頷いた。どうでもいいけど長次みたいな人が頷く仕草ってなんか可愛いよね。って私変態みたいだ。


「…ありがとう」

「どういたしまして。あ、少しは笑いなよ。にこーって」

「……」

「ほらほら、にこーっ」


私がお手本に笑う。まさか笑えない、なんてことはないだろう。人間誰しも必ず喜怒哀楽があるのだから。ありがとうって言いながらスマイルなんてイケメンの基本だよ。長次は少し怖いけどイケメンの部類なんだからさ。もう少し愛想よくしようぜ!長次は視線をうろうろと泳がせた後唇の端をクッと吊り上げて…。


「ふ…へ、へへへへへ…」

「……」


初めて見た長次の笑顔は夏の暑さをぶっ飛ばす程不気味でした。





(やっぱり笑わないで)

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