部屋は私と同じ部屋。すぐには帰らないと思うけどまだ解らない家族との騒動を避ける為に。ベッドで寝ていいと言っても長次は頑なに首を横に振った。居候の身でそこまで出来ない、とのことらしい。ベッドに慣れてない、というのもあるらしいからベッドの横に布団を敷いた。長次は複雑な顔をしてた。まぁ、年頃の男女だし?
「長次、今日は買い物に行くぜ!」
「…何故」
「長次の服とか買わないといけないからね」
「…すまん」
「いーのいーの、んじゃこれに着替えて下さい」
長次はほんとに礼儀正しいっていうか、謙虚だなぁ。朝ご飯(長次に合わせて和風に。カレーはやめた)を食べ終わって長次に服を渡した。お父さんの服だけど合うかな。黒のポロシャツとベージュのジーンズ。ずっとあの忍者服じゃばっちいからね。頭巾も被ったままだし。…もしかして忍者だからあんまり晒せないとか。でも長次は渡された服をしばらく眺めて頭巾を脱いだ。私の心配は必要なかったみたいだ。私も着替えて来よう。リビングを出て部屋に向かった。…お金、大丈夫かなぁ…。
初めての電車にびくびくする長次はなんか可愛かった。デパートに着いてからもキョロキョロするからつい吹き出してしまった。
「さて、服と下着を買わなきゃね」
「下着…」
「おっと!そんな顔はやめておくれ。気恥ずかしいのは私もです」
長次に任せたいところだけど解らないから仕方ないじゃないか。長次は頬を引き攣らせていたけど我慢して貰おう。安心してよ、白のもっこりブリーフなんて買わないから。ボクサーパンツ辺りにしとくから。エスカレーターに向かうと長次がこれまたびくびくしていた。階段が動いてる…と呟いていたからこれまた笑ってしまった。
私の後ろをついて来る長次を、ちらりと見る。長次は脚が長くてお父さんのジーンズじゃ丈が足りなかった。だから腰パンにして貰ったけど、初めて着たとは思えないくらい着こなしている。長い髪はうなじのところで結んでいて、うん。普通にかっこいい。身長高いし。顔の傷が勿体ないなーって感じだ。
「下着は5枚くらいあればいいかな…洋服は、上はお父さんのでもいけるからズボンだけでも…」
「…1番安いもので」
「ううっ…ごめんね気を使わせちゃって…」
お母さんとお父さんは必要分食費となけなしのお小遣いしか置いていかなかったから無駄遣いは出来ない。お小遣いから長次の日常品を買うとして、私のお小遣いはほとんど消えてしまう。別にいいけどね!これも人助けさ!…人助けさ!長次に必要なものを買ってから時間が余ったのでカフェに入ることに。長次は甘いものが平気だということで、私オススメのミルクレープを注文した。それと飲み物はブラックコーヒー。私はカフェオレを頼んだ。初めてのフォークを簡単に扱い、長次はミルクレープを口にした。
「…旨い」
「そっか。よかった」
「…未来には、こんなものがあるのか…」
「友達に自慢しなよ。あ、友達も忍者なんだよね。どんな人がいるの?」
長次は少し考え込むように視線を落とした。ケーキを一口食べて、私を見る。
「…やたらと動き回る」
「…元気なんだ?」
「隈が濃い奴と、色白な奴と、不運な奴と、子供好きな奴もいる」
…不運な奴ってのがすんごい気になる。不運で忍者って大丈夫なのかよ。カフェオレを飲みながらふと長次の顔を見たら、長次は優しい顔をしていた。いや、あんまり変わらないけど…なんか和らいだっていうか。友達の話をしたからかな。これで気持ちが和らぐならいいけど。もっと友達の話を訊こうと口を開いたら長次がものすごく険しい顔をした。
「…どうしたの?」
「…苦い…」
「…あー、コーヒーか」
険しい顔の原因はコーヒーだった。よくよく考えたら甘いミルクレープに苦いブラックコーヒーは酷かったかも。ミルクとシロップを入れたら飲めるようになってた。緑茶の苦さとはまた違うもんね。口の中がすっきりしないのか長次は一生懸命ミルクレープを咀嚼している。今度来ることがあったらキャラメルマキアートにしてあげよう。それはそれで胸やけしちゃうかも知れないけど。
「お昼はどうする?うどんとか和風なものがいい?」
「いや…」
「お。じゃあパスタにチャレンジするか」
「…ぱすた…?」
「大丈夫、苦くないし」
ニッと笑って見せたら長次は睨むような目をした。多分照れてるんだと思う。長次の目付きは元々優しいものじゃないからね。にしても、パスタか。パスタなら家にあるし簡単に出来る。
長次が食べ終わってから店を出た。普通に歩いていたら、手から荷物が消えた。長次に取られてしまった。
「…私が持つ」
「…えへへ、ありがと」
衣類系ばっかりだからたいして重くなかったけど甘えることにしよう。長次の分のパスタはミートソース多めだね。
(夜は中華にする?)