「名前ちゃんにお兄さんなんていたっけ?」

「いたいた」

「コスプレ好き?」

「うん。忍者オタク」


庭に倒れていた男は気を失っていて私が近寄っても揺さ振っても起きなかった。顔には傷があって少し怖かったけどどこと無く具合が悪そうに見えて、取り敢えず家に運ぶことにした。うちの物を盗んだ可能性は低いし。だけど男は体格がよろしく私ひとりでは運べなかった。そこでオカ先を呼ぶことにした。電話一本で駆け付けてくれるなんて優しい先生だなぁ。説明が面倒臭かったから「兄貴が忍者ごっこして2階から飛び降りて頭打った。運ぶの手伝って」と言ってある。男は漫画に出て来る忍者の格好そっくりだった。


「じゃあ僕は帰るね」

「夜ご飯食べてけば?カレーだけど」

「そういうのは彼氏に言いなさい」

「や、喧しい!」

「また学校に出て来てね」


男を私のベットに寝かせてオカ先は帰って行った。喧しい一言を残して。くそったれ。私にだって夕飯ご馳走するような男の人くらい…いないけど。オカ先は20代前半の若い男性教師だ。もしかしたらイイヒトがいるのかも知れない。あーあ。なんか悔しい。男は気持ち良さそうに眠ってる。年は同じくらいか少し上ってとこかな。ちなみに私は高校2年生です。


「うし、カレー作るか」


カレーは日持ちするから多めに作ってやろう。この男も食べるかも知れないし。てゆうか見ず知らずの人間に何やってんだ私は。警戒心が無いなぁ、我ながら。部屋を出て台所に向かう。人参に玉葱にジャガイモに肉。適当な大きさに切ってお鍋にドン。カレーは簡単に出来るし美味しいから助かる。2日目の朝のカレーとか最強だね。サラダ用にレタスとトマトを切っていたら2階からガタンッと物音がした。2階には私の部屋。私の部屋には忍者オタクの男がひとり。あ、起きたのかな。カレーのルーをぽぽいっと放り投げる。玉葱を切った所為で滲んだ涙を拭いて2階に上がった。


「起きたー?…ん?」

「……」


部屋を開ける。すると男はベットの隅っこの方に立っていて、私を見下ろしていた。壁に背中をぴったりくっつけて私と距離を取ろうとしてるみたいだ。ほんとに忍者みたいな人。電気を着けると男は肩をビクッと揺らして驚いていた。


「具合はどう?うちの庭で倒れてたんだよ」

「……」

「起きないから勝手に運ばせて貰ったんだけど」

「……」

「…喋れないの?」

「…誰だ」


ぼそり、男の声は低かった。そう言えば自己紹介してないか。私も気になるし。未だにベットに立ったままの男に近寄る。何をそんなに警戒してんだか。ん?私が警戒心薄いだけなのかな。男の前に立ってみる。男はずっと私を見下ろしてる。…顔の傷の所為もあるけど、怖いなぁこの人。


「私は苗字名前ちゃんだよ。君は?」

「…中在家長次」


両手の人差し指で両頬をついて首をかしげてポーズ。でもあっさりスルーされた。場を和ませようとしたのに中在家くんの視線はますます冷たくなった気がする。私はイターイ空気をごほんと咳払いで誤魔化した。


「お腹空いてない?カレーあるよ」

「……」

「…取り敢えずおいでよ」


そんなに睨むことないと思うけど。中在家くんを気にしながら部屋を出る。台所に入る頃には階段を降りて来る音がした。





(腹が減っては何とやら)

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