夜ご飯を食べていたら急に外が騒がしくなった。なんだろう?父さんと母さんも不思議そうに顔を見合わせている。外を見よう、と立ち上がった時だった。背筋が凍るような悲鳴が鼓膜を揺らした。地面を蹴る馬の足音、下品に笑う男の声、悲鳴悲鳴悲鳴、泣き声、断末魔。怖くて気持ち悪くてわたしは身体が動かなくなった。なにがおこってるの。外でなにが。それを確かめる勇気は、わたしには無かった。立ち尽くすわたしの腕を父さんが掴んで引き寄せる。見上げた父さんの顔は真っ青になっていてわたしはますます心細くなった。


「父さん、母さん」


ふたりは何も言わずわたしを見つめた。母さんは立ち上がって水瓶の蓋を取ると父さんへ振り返る。父さんはわたしを抱き上げるとそのまま水瓶の中へ突っ込んだ。水瓶の中身はだいぶ減っていてわたしの腰くらいまでだったから呼吸に問題はなかった。でもどうしてこの中に入れられたんだろう?不安になって顔を上げる。すると母さんがバッ水瓶の蓋をした。水瓶の中が真っ暗になる。わたしは一気に恐怖に襲われた。


「母さん!父さん!」

「駄目よ、静かにして」

「声が聞こえなくなるまでこの中にいなさい」


やだよ、と言う前に戸を破られる音がした。知らない男の声が幾つも聞こえてくる。母さんが悲鳴をあげる。父さんが怒声を叫ぶ。だけど男は笑って笑って、嗤っていた。怖い。気持ち悪い。なに?なにがおこってるの?父さん達は誰と話してるの。わからない。怖い。身体ががたがた震えた。両手を握り締めて目を閉じる。心の中で、よし、と呟いて頭でそっと蓋を開けた。自分の目の高さまで開けると家の中が見渡せるようになった。知らない男の背中が見える。その向こうに父さんと母さんがいる。つい名前を呼びかけた。

───ギャアアアアッ!

わたしの小さな声は父さんの悲鳴に掻き消された。父さんは左肩から腰の右側まで、真っ赤な血を流して倒れた。わたしは目を見張って、急いで首を引っ込めた。口を押さえた。震えが、止まらなかった。父さん、父さんが、父さんが斬られた。なんで。どうして。頭の中がぐちゃぐちゃになる。そんなわたしにトドメを刺すように聞こえた悲鳴は母さんのものだった。怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!耳を塞いだ。だけど知らない男の下品な声はいつまでも聞こえてきて、わたしは意識を失った。















気が付いたらわたしは誰かにおぶさっていた。あたたかい背中。ああ、父さんだ。これは父さんの背中だ。アレは夢だったんだ。とうさん、と小さく呟いた。


「…寝言、でしょうか?」

「土井先生を父親だと思うとるんでしょう」

「可哀相に…」


知らない声がした。父さんでもなくて母さんでもない。だけど安心出来る声だった。村の人かな。新しく越して来た人なのかも。今はまだ眠いから、次起きたら挨拶に行こう。


「親を殺され村を焼かれ…こんな小さな子に、酷過ぎる」


眠るわたしの目から、涙が零れた。



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