朝起きると、なまえは眠ったまま泣いていた。怖い夢を見てるのかと思って名前を呼んだら意外とすぐに目を覚ました。なまえはしばらくぼんやりしていたけど俺を見たら、にこっと笑った。目をごしごしこすりながら口を動かす。慌てて目で追った。
「母さんと父さんに逢ったの」
「…夢、見たのか?」
なまえは嬉しそうに何度も頷いた。そっか。泣いてたのは嬉しかったからだったのか。良かったな、と笑いかけたら、なまえも笑った。
なまえと一緒に立ち上がってゆっくり外に出た。空はまだ白くて、随分早く起きたらしい。頭を撫でるとまだ鈍い痛みがある。冷やしておけばすぐ治るだろうからいいけど、アルバイトの量を減らした方がいいかな。なまえが心配するだろうし。安静にして早く治して、また一緒に町に行かなきゃな。なまえの頭に挿さったままの簪を見て、つい笑ってしまった。そしたらなまえが目を丸くした。それから、ふっと目尻を下げた。なんだろう?どうした?と口を開いた瞬間だった。
「きり丸は母さん似だね」
────初めて聞いた声は、どこからのものだったのか。目の前にいるなまえは驚いたように口を押さえている。まさか今の声は、まさか、まさか。見開いたなまえの目から涙がこぼれた。
「わたしの声、聞こえる?」
「…ちゃんと聞こえるよ」
「わたし、きり丸に、言いたかったことがあるの。ちゃんとわたしの声で、ずっと言いたかったの」
「うん。ちゃんと聞くから」
泣くなよ。寝間着の袖を引っ張ってなまえの涙を拭いた。でもなまえは泣き続けた。震える声で、あのね、あのね、と繰り返す。俺の袖をぎゅうっと掴んだ。
「わたし、寂しかったけど、寂しくなかったの。不幸せだけど幸せだったの」
「うん」
「それはね、あのね」
「うん、うん」
「きり丸がいたから、なの」
「…うん」
「ありがとう、ありがとうきり丸」
こぼれ落ちたなまえの涙が俺の手の甲で弾けた。そしたらなんでか、俺もちょっとだけ泣いてしまった。