学園が休みの日、俺となまえは街に出掛けることにした。なまえは泣いて喜んでくれたから、言ってみてほんとうによかった。
約束の時間になり門で待つこと半刻(約十五分)、なまえはまだ出てこない。昼ご飯は街で食べたいから少し早めに出よう、って言っていたのはなまえなのに。女の子は準備が長いと聞いたことがあるけどやっぱりなまえもそうなのか。街に行くのは初めてらしいし、お洒落とかしたいんだろう。着物はくのたまが貸してくれるって言ってたし色々おめかししてるんだよな、きっと。男なら気長に待ってやらないと。
「顔が怖いぞ、きり丸」
「…いくら何でも遅い」
「まあ、街は逃げないから」
隣に立つ土井先生がくすくすっと笑った。土井先生も一緒に街へ行くのだ。なんか、暇だったらしい。土井先生も早く好い人見付けたらいいのに。ずっと独身でいくつもりかな。それは悲しいな…。忍者だからと言っても山田先生には奥様がいらっしゃるし、土井先生って顔はいいんだから絶対嫁さん貰うべきだって俺は思うね。腕を組んで溜め息を吐き出す。にしても、遅いなあ。着替えて、髪を結んで、それだけだ。何に時間をかけるんだろう?女の子って分からない。
もう一度溜め息を吐き出した時だった。足音がしたからなまえだと思って顔を上げた。だけど視界に映ったのは、金髪。
「お待たせ〜」
「…なんだ、タカ丸さんか」
「非道い言い草だなぁ、せっかくお姫様を連れてきたのに」
「お姫様?」
タカ丸さんの言葉に首をかしげたのは一瞬。タカ丸さんの後ろに隠れてるなまえに気付いて合点がいった。それからやけに時間がかかった理由も分かった。たぶんなまえはタカ丸さんに着物や髪結いを頼んだ。前に上級生の説明でタカ丸さんが元髪結いだって言ったらすごくびっくりしてたから印象的だったんだろう。てゆうか、隠れきれてないの分かってるのかな。土井先生が近付いたらなまえはタカ丸さんごと後ろに下がった。
「ほらなまえちゃん、おかしくないから」
「タカ丸が髪を結ったのか?」
「えぇ。なまえちゃん、きり丸くんとつり合うよう可愛くして下さいって」
「え」
俺とつり合うよう、って。タカ丸さんの言葉に反応したなまえが顔を真っ赤にして飛び出した。タカ丸さんの袖を引っ張って口を動かしてるけど声は出てない。たぶん「なんで言うの!」的なことを言ってるんだと思う。
なまえの格好は、普段からは考えられないくらい綺麗だった。赤い着物に濃紺の帯、漆塗りの下駄。軽く化粧もしてあるし髪には俺があげた簪が挿してある。普段はくのたまの制服を着てるからなんだかすごく新鮮だった。なんだかすごく、照れくさくなった。
「私はお邪魔虫かな?」
「…からかわないで下さい」
「顔が赤いよ、きり丸」
こんなのガラじゃない。タカ丸さんの肩をポカポカ叩くなまえを見て、うるさい胸を押さえた。