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神龍寺にある巨大な仏像。その肩や胸にロープを巻き付けて引っ張るのは神龍寺のアメリカンフットボール部の精鋭達。端から見れば何やってんのこいつら?って思うだろうが、笑っちゃいけないナメちゃいけない。彼らはいつだって本気である。泥門デビルバッツに破れてからは特に熱い。この『大仏引き』も毎日行われている立派なトレーニングだ。



「あ」



ズズズ、地響きと共に地面が少し揺れる。それでも彼らは止まらずに足を動かした。みんながワアワア叫んでいるから誰が何を言っているのかは分からない。汗だくできつそうで、でも、どこか楽しそう。それを見ていたらつい吹き出してしまった。いいなあみんな。いい表情で練習するようになった。思いっ切り息を吸い込んで首から掛けたホイッスルを鳴らす。ホイッスルの余韻が消える頃、みんながその場に倒れ込んだ。ドリンクやタオルを乗せた荷台をガラガラ言わせながら引いて近付いていく。近くにいた雲水に笑いかけると、雲水は顔だけを緩めて笑って見せた。息はゼエゼエ足はガクガク。雲水だけじゃない、一休も山伏さんもゴクウもハッカイもサゴジョーもサンゾーも、とにかくみんなお疲れだ。午前の練習はこれで終わりだからゆっくり休んで貰わないとね。腕時計を見る。12時ぴったり。



「午後は14時から始めるから、みんなしっかり身体を休めるようにー!」

「名前ー水くれー!」

「はいはい。山伏さんもどうぞ」

「おぅ、ありがとう」



ひとりひとりに水を渡しながら声を掛けて回る。一休には水を掛けてやった。お昼ご飯は食堂のおばちゃんに頼んであるから大丈夫でしょ。荷台が空になったのを確認してヨシと呟く。私もお昼にしようかな。んんん、と背伸びしたら雲水から名前を呼ばれた。


「あいつは?」

「多分筋トレ中かな。行ってくる」

「あぁ、気を付けて」

「…それ、彼氏のとこに行く彼女に言う台詞じゃないよね」

「まぁな」


くすくす笑う雲水につられて周りも笑い出す。なんとなくむかついたから一休の水を掛けてやった。一休に。でもまあ、確かに気を付けないといけない。トレーニング中の奴は気が立っていて恐ろしいのだ。…私からしたらそうでもないけど、って思うのは、私が奴の彼女だからなのかしら。荷台を倉庫に仕舞って、トレーニングルームに走った。















トレーニングルームから最近流行りのアーティストの新曲が、大音量で流れている。トレーニング中に音楽を流すのは阿含だけだ。別に誰にも支障は無いし音楽を聴いてリラックスした状態でトレーニングをすることはいいことである。でも、もうちょっと音を小さくしてもいいんじゃないかな。顔をしかめながらトレーニングルームを覗き込むと、マットの上で阿含が仰向けになって横になっているのが見えた。あれ?近付いてみると小さく上下する胸。どうやら寝ているらしい。



「…疲れるよねえ」



そりゃそうだ。泥門に負けてからというもの、阿含は毎日毎日トレーニングばかりしていた。時々街に遊びに行くけど以前の阿含にしたら随分変わった。私は今の阿含が大好きだ。なんて本人には絶対言ってやんないけど。阿含の顔の横にドリンクを置く。隣に腰を下ろして、そっと頬を撫でてみた。



「お疲れ様、阿含」



よっぽど疲れているのか阿含は眠ったまま。額に滲んだ汗が滑り落ちた。ほらね、やっぱり。そんなに恐ろしくない。ひとりで小さく笑った。

ナーガはまだまだ強くなる。そう確信した、ある昼下がり。

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