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悪魔だ、外道だ、魔王だ。他に言葉が見付からない。とにかく最低だ。ヒル魔くんは。半泣きになりながらそう思った。
私は女だということを隠して神龍寺に通っている。泥門戦の時に大勢の前で女だとばらしたから今はもうみんなにばれてるけど、マスコミやら何らかの騒ぎにならないのはヒル魔くんのお陰なのだ(詳しくは『少年少女進化論』の64話を見てね!)だからヒル魔くんがその気になれば私は退学させられることも、有り得てしまう。逆らえると思ったことはないけどここまで逆らえないとは。がっくり肩を落として深呼吸をした。取り敢えず、行かねばなるまい。部室のドアを開けてグラウンドに向かった。
「…名前姉ちゃん!?」
「チアガールキタアアアアア!」
まず気付いたのはセナに、三兄弟雲水と一休と山伏さんは真っ赤になって固まっていた。ううう、その反応嫌だ…!恥ずかしくて動けなくなる私の背中を鈴音ちゃんがぐいぐいっと押す。ローラースケートを履かされた身体は抵抗の余地も無くスイスイ進んだ。
「ひるまよういちコノヤロオオオオ」
「名前チャンコッチ向イテー」
「写真ダメゼッタイ!」
一眼レフと携帯を構えたヒル魔くんがおぞましい高笑いをしている。また新たな弱味を…!三兄弟が鼻息を荒くさせて練習をしている。士気が上がっているのかよく分からない。多分ヒル魔くんの暇潰しなんだろう。あーもう嫌だ寒いし最悪。肩に掛けたブランケットを握り締める。未だ止まないフラッシュに堪えきれずマイサンクチュアリ(雲水)に避難しようとした、ら。
「く、来るな!」
「…え」
「あの、いや、だ、駄目だ!」
「う、雲水」
「違うんだそうじゃなくて…!」
う、雲水が、来るなって。どんな時も優しかった雲水が私に来るなって。雲水は真っ赤になったままずりずりっと後退りしている。分かるよ、雲水が女の子に免疫無いの分かるけど。ミニスカ臍出しに慣れてないの分かるけど。けど。雲水に拒絶された事実は私の中で大きな衝撃を与えた。首を捻って山伏さんを見る。山伏さんはびくりと揺れて冷や汗をだらっだら流した。これは雲水と同じパターンだろう。わ、私のサンクチュアリが…!
ずぅーん…と落ち込んでいたら校門からドゴォオオン!と凄まじい破壊音が聞こえた。グラウンドにいた全員が校門を見つめる。砂煙が立ち込める中、塀にタクシーがめり込んでいるのが見えた。…タクシー?あれ?ちょっと待ってね、タクシーの運転席から降りてくるあのドレッドは…!私の後ろから悪魔の高笑いが聞こえる。チクショーお前かアアアアア!
「ヒル魔くん何したの…」
「さっきの写メを送ってやっただけだ」
じゃあなんであんなにキレてるの!街でタクシーパクって来やがって今更だけど犯罪だよお前!阿含は眉間に恐ろしいくらい皺を寄せてゆっくりゆっくり歩み寄って来る。うわあやばいマジ怖い。
「ンハ!ダーリンじゃん苗字、飛び付いちゃえ!」
「わああああっ!?」
何故か半裸の水町くんから背中をどんっと押された。さっきも言ったようにローラースケートを履いた私に抵抗なんか出来る訳がない。押された勢いのまま私はシャーッと滑った。ちょっ待、スピード半端ない!ぶつかるぶつかる!なんとかスピードを緩めようと腕をバタバタさせるも意味がない。このままじゃ木とか塀とかにぶつかる。このスピードでぶつかったら絶対に痛い。そんなの嫌だ!ぎゅっと目を瞑る前に見えたのは黒い壁だった。
「ぶっ」
壁に顔から衝突した。割には、そんなに痛くなかった。なんか弾力があってあったかい…なんだと。弾力があってあったかいなんてそんな壁あって堪るか。もっももももしかしてこれは。恐る恐る顔を上げる。
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