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「は、葉柱くん、なんでこの雪像作ったの?しかもふたつも」
話題を変えようと雪像を指差した。顔はまだ熱かったし無理矢理だったけどこの際無視だ。葉柱くんを見上げると、葉柱くんは軽く首を横に振った。
「俺らが作ったのは泥門のだけだ」
「へ?こっちは?」
「帝黒の奴らが作ってたぜ」
「…じゃあ、なんで泥門のやつを作ったの?葉柱くんって泥門の人と仲がい」
バキンッ、と何かが割れるような折れるような、そんな音がした。見れば葉柱くんが長い腕を伸ばして自動販売機を殴っていた。殴られた自動販売機は見事にへこんでる。葉柱くんの顔めっちゃ怖い。…泥門と仲がいいどころか、寧ろ嫌ってるみたい。多分原因はヒル魔くんだろうなあ。もしかして何か弱味を握られてるとか。深く追求するのは危険だと感じた私は黙ってミルクティーを飲み干した。
ふと携帯の時計を見ればいつの間にか0時を過ぎていた。明日は早いんだからそろそろネカフェに行かなきゃ。その旨を葉柱くんに伝えると、葉柱くんはまた怖い顔になった。
「カッ!馬鹿かテメーは!」
「えっ、な、なんで」
「女のくせに誰がいるかも分かんねえところに泊まるとか言うんじゃねえ!危ねえだろうが!」
「……」
「もっと警戒心を…あんだよ、何見てんだ」
「…葉柱くんって意外と紳士だね」
「普通だ。テメーが馬鹿なだけだろ」
「賊学のくせに」
「なんか言ったか」
「いえ何も!」
葉柱くんがギロリと睨んできたから慌てて口を閉じた。でもほんとに意外。葉柱くんって見た目より怖くなくて優しい人だ。
葉柱くんはバイクの座るところ辺りに引っ掛かっていた黒いヘルメットを私へ差し出した。何でも寮まで送ってくれるらしい。今は寮に帰りたくない、と言ったらデコピンされた。葉柱くんって意外と面倒見がいいのかも。いつも子分みたいな人達連れてるもんね。納得納得。
バイクに乗るのは初めてでちょっと緊張した。よく漫画とかで女の子が男の人の腰に手を回してぎゅってしがみついてるようなシーンを見るけど、流石にそれを葉柱くん相手に出来ない。葉柱くんの肩をしっかりと掴んだ。てゆうか葉柱くんはノーヘルなんだけどこれってまずいんじゃないのか。つっこむべきなのか。未だやまない雪を見上げる。吐き出した息が真っ白だった。
「…明日のクリスマスボウル、どうなるかな?」
「カッ、知るかよ」
「私は泥門が勝つと思うな」
「へぇ」
「ヒル魔くんしっかりしてるし…同じ不良に見えるのに、なんであんなに阿含と違いがあるんだろ」
「…さあな」
「…泥門が羨ましいな」
葉柱くんはブオオン、とエンジンをふかした。凄まじい音を吐き出しながらバイクは進んでいく。スピードが速い。肌に当たる風が冷たくて痛い。ダウンジャケット着てて良かったかも。目を開けてられない。葉柱くんの肩甲骨辺りにおでこをくっ付けて目を閉じた。
風の音に紛れて葉柱くんが羨ましいよなって呟いたような、そんな気がした。
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