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「…そうか」

「うん」

「お前金剛阿含と付き合ってたのか…」

「そこかよ」



素早く的確なツッコミを入れると葉柱くんはなんつうかなァ…と曖昧な台詞をこぼした。

あれから、どうやらお仲間さん達だけでガストに向かったらしく、葉柱くんは何故だか私とここに残った。私は葉柱くんから渡されたダウンジャケットに腕を通して、今は自動販売機の前でホットミルクティーを飲んでいる。因みにこのダウンジャケットはお仲間さんのひとりから剥ぎ取ったらしいけど…バイクで寒いだろうに、大丈夫かな。名前も顔も知らないダウンジャケットの持ち主に心の中で頭を下げた。葉柱くんは自分のバイクに座って私と同じホットミルクティーを飲んでいる。吐き出した息は白く、甘い匂いがした。何も会話が無いままぼーっとしていたら突然葉柱くんが何泣いてんだよと言った。言われた言葉に目を丸くする。隣にいる葉柱くんを見上げて、私は呆然とした。反射的に自分の目元に触ってみる。濡れてない。もう乾いてる。じゃあ、目が赤いのかな。そればっかりは分からない。葉柱くんは視線だけ動かして私を見て、何でもなかったみたいに雪像を見つめた。

それからは、ぽろぽろと落ちるみたく、言葉が出て来た。沈黙に堪えられなかったのもあるけど葉柱くんは何も言わず聞いてくれるから嬉しくて、つい喋ってしまった。そして冒頭に戻るのだ。



「…お前の言い分も分からねえことはねえけどよ」

「ん?」

「それ、仕方ねえんじゃねえのか?」

「…え?」



言われた意味が分からず顔を上げる。葉柱くんと目が合うことはなかったけど、葉柱くんはなんだか困ったような表情をしていた。



「金剛阿含は昔っから『自分が最強』っつう風に生きてきてんだろ?そんな奴がいきなり根っこから変わろうってのが無理だと思うぜ」

「…阿含は悪くないってこと?」

「そうじゃねえ。言ったろ、お前の言い分も分かるってよ」

「じゃあ」

「俺達みてえな人間に正しい生き方なんざ…悪くないやり方なんざ、急に言われて理解しろっつう方が、難しいもんだ」



────そう呟くように言った葉柱くんは、すごく悲しそうな顔をしていた。泣き出しそうなくらいの、顔だった。なんでだろう。なんでそんな顔をするんだろう。見ているこっちが辛くなるくらいの切ない顔。葉柱くんの言葉が胸にズシンと沈む。私は自分の手の中にあるホットミルクティーに視線を落とした。甘い匂いがする。なのに、気持ちはそわついて落ち着かない。

葉柱くんの言う通りなのかも知れない。阿含は今まで自分勝手に生きてきた。アメフトでだって『自分さえいれば最強』だとか思っていた。そんな男が根っこから変わる筈は無いことくらい、少し考えたら分かっただろうに。だけど私は阿含を信じてた。それを、私だけじゃなくて、みんなも裏切ろうとしてたのが気に食わなかった。…だけど。そうだよね。今まで練習をしなかったような男がちゃんとトレーニングをするようになっただけでも進歩だと思うべきかな。私が折れなきゃいけないの?謝るのって私?…そう考えたらちょっとイヤだ。私は悪くないんだ。でもきっと、阿含も悪くない。阿含は多分、分からなかったんだろうな。私がなんで怒ったかなんて。今はそれでいいかも知れないけど、『これから』は、どうなるの。また泣きそうになってくる。誤魔化すようにしてホットミルクティーに口を付けた。



「…付け加えるみてえで悪いけどよ」

「うん?」

「金剛阿含は帝黒に、お前も誘ったんだろ?」

「うん。そのつもりだったみたい」



まあ誘われたって絶対行かなかったけどね。私はナーガが大切なんだから。だけどそれがどうしたんだろう。葉柱くんを見上げる。葉柱くんは私を見て、視線をうろうろと泳がせた。



「それ、喜んでいいんじゃねえか?」

「…何を?」

「金剛阿含ってかなりの女好きだろ。でもアメフトになると女には無関心って聞いたことがある」

「それはそうだけど。でも何の関係があるの?」

「だから、あー…アイシールドを倒すことばっかじゃなくて、ちゃんとお前のことも考えてたんじゃねえのかよ」

「…え?」



葉柱くんは長い舌をだらりと垂らしたまま長い腕で頭をガシガシと掻いた。私は思わず立ち上がり、葉柱くんの顔を覗き込む。それってつまりどういうことだ。それって、それって。葉柱くんは困ったような顔をしたまま、だけどはっきりと言葉を紡いだ。



「お前、愛されてんだよ」

「……」

「アイシールドを倒したいっつうのも案外お前を喜ばせたいからじゃねえの?そういうところは認めてやっていいんじゃねえか?」

「……」

「…何照れてんだよ」

「い、いや…ちょ、ごめん…」



葉柱くんから顔を逸らして、私はその場にしゃがんだ。駄目だ、恥ずかしい。有り得ない。顔が熱い。

確かに阿含はアメフトが絡むと女には無関心だ。例えば試合前に女に話し掛けられても見向きもしない。泥門に負けてからは何があっても泥門の試合を観に行くようになった。なんだかんだ言っても阿含はアメフト大好き少年なのだ。熱血、とはいかなくても、ほんとにそう。阿含はアメフトになると夢中になって、周りなんかどうでもよくなる。

その中に私がいたことが、堪らなく嬉しい。

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