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相変わらず阿含から連絡は無い。だからと言って私からメールするのもアレだし、電話するのもソレだし。邪魔になるのは嫌だし。だから連絡が来るまで待とうと思った。それか、自然に帰って来るのを待とうと思った。出来れば早く会いたいなあなんて、らしくない。
ピィーッとホイッスルが鳴る。午前の練習を終える合図だ。日曜日、今日も今日とて泥門で練習である。試合まで後一週間と少し。見ていてみんなの顔も気持ちも引き締まっているのが分かる。まもりと一緒にハチミツレモンやドリンクを配って廻った。因みに今日はチアガールの格好じゃない。そこは色々と(真っ赤な顔した)まもりがヒル魔くんから守ってくれた。まあね、肩の痣はまだ消えてませんからね!神龍寺の制服を、なんとなくしみじみと握り締めた。午後は二時からだ。それまでマネージャー業も休憩しよう。みんながグラウンドから下がっていくのをのんびり見送った。
「…まもりー」
「何? わっ!」
「おぉ、ナイスキャッチ!」
「もう、いきなり投げたらびっくりするでしょ!」
「ごめんごめん」
グラウンドに転がっていたボールを拾いまもりにパスしたら、まもりはびっくりしながらもなんとか受け止めた。まもりは運動オンチではないけどずば抜けて運動神経がいい訳でもない。まあ、あれだね。優等生並みに平均的に何でも出来るんだ。図工と美術以外は。まもりが投げたボールをキャッチする。…まもり、モン太くんよりパス上手いよね。ヒル魔くんの真似をしてボールを振りかぶる。ううむ、肩の力が男の子程ないからそんなに飛ばないだろうなあ。ボールを指先で摘まんで脇に抱え込んだ。少し身体を屈めて足に力を入れる。そのまま、思い切り走った。
50メートルくらい走ってスピードを緩める。当たり前だけど、セナみたいな爆発的なスピードは出ないや。
「…名前って、足速いのね」
「えへへ、まあね。元はマネージャーじゃなくてランニングバックとしてナーガに誘われたんだし」
「そうなの?」
「うん。私女だから、アメフトなんて出来ないと思うけど」
「でも帝黒にはいるらしいよ?女の子のクォーターバック」
「まじで?」
てゆうか女の子もアメフトしていいんだ。男の子だけのスポーツだと思ってた。女の子でクォーターバックか、どんな子なんだろ。ムキムキしてるのかな。クォーターバック…ヒル魔くんしか思い浮かばない。ヒル魔くんみたいな女の子ってナイよね。うん。女の子でクォーターバックがいるなら、私もランニングバックになれるかな?
「ろでおどらいぶ!」
「ふふ、出来てないよ」
「じゃあ…とらいでんとたっくる!」
「出来てない出来てない」
「ムッキャー!モン太くんの真似!」
「ぶっ!に、似てる!」
「名前ー!携帯鳴ってるぞ!」
「え、投げて投げて!」
部室の方から雲水が私の携帯を振っていた。雲水は軽く振りかぶると柔らかい動きで携帯を投げる。衝撃を抑えつつしっかりキャッチしてサブ画面を見て、目を見開いた。
『金剛阿含』
思考回路が真っ白になる。だけどすぐに我に帰った。ま、まさかこの男から電話が掛かってくる日が来るとは。携帯を開いて通話ボタンを押す。ごくり、唾を飲み込んだ。
「も…もしもし」
『俺だ』
「分かってるけど…どうしたの?」
『今日は夜に帰る。寝ないで待ってろ』
「へ?」
『切るぞ』
「ちょ、待って、今何処にい」
『ちょっとぉ、誰と喋ってんの?』
「────」
ブツッ。やけに嫌な音を立てて通話は強制終了された。最後の最後に、甘ったるい声音の爆弾を投下して。携帯を耳から離して、閉じないまま腕を下げる。頭が混乱していた。いきなり電話掛けてきたと思ったら何コレ。意味が分からない。動かなくなった私を心配そうにまもりが覗き込んでくる。まもりの両目に映る自分を見て、びっくりした。なにこれ、私泣きそうな顔してる。まもりのジャージの袖をぎゅっと掴んだ。
「どうしたの?今の、阿含くんだったんでしょ?」
「どうし、よう、まもり。今日の夜、寝ないで待ってろって」
「え?」
「女の人の声が、したの。どうしよう、どうしよう私…」
別れようって言われたりしたら。それから先は言葉にならなくて、私はずっと黙り込んでしまった。
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