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次の日泥門に行くと、モン太くんの調子は絶好調だった。あれ?昨日話で聞いてたのと全然違う…。セナの調子もいいみたいだし、どうやら仲直りしたらしい。一休が「あいつ意味分かんね!」とかぶつぶつ言ってたけどなんか嬉しそうだった。モン太くんは今、ヒル魔くんの170台ある携帯をひとつ壊してしまった為マシンガンで狙われている。170台って…何に使うの?善くないことではあるんだろうなあと思ってそれ以上は考えないことにした。グラウンドを見渡す。トッププレイヤー同士は磨き合って、そうじゃない人はオールスターの光に引きずり上げられる。すごい、いい流れで回ってる。



「────で、糞ドレッドはどうした。奴も手伝いに来させやがれ、契約違反じゃねえか」

「阿含なら今日もトレーニングだよ。毎日毎日取り憑かれたみたいに」

「ケケケ、そうかよ」

「…でさ、ヒル魔くん」

「あ?」

「なんでまたこの格好なのかな」

「テメェがその格好をすることで三兄弟だけじゃなくコーナーバック組の士気も上がることに気付いた」

一休テメェ!



この裏切り者!クワッと叫ぶと雲水のパスをキャッチし損ねた一休が滑って転んだ。バーカバーカ、モン太くんだけなら未だしもお前…!そんなこんなで、このクソ寒い季節に私は腕も足も臍も丸出しのチアガールスタイルをしていた。肩から掛けたブランケットだけが私の味方である。この格好の時の私と雲水は目も合わせてくれないから避難も出来ない。喧嘩してもすぐ仲直りしたりこんな格好したら士気上げたり、男って分かんないなあ。まあその清々しい感じは羨ましくもあるんだけどさ。

冷たい風に吹かれくしゃみをこぼす。鈴音ちゃんがシャーッとローラスケートを軽やかに操って目の前まで来た。手に赤いコートを持っている。…赤いコートと言うか、これって、サンタクロースの衣装?



「これ新作の衣装なの!防寒着にもなるし、着てみて着てみて!」

「あ、あぁ、うん…」



実験台な訳ですな…。でもほんとにあったかそう。ブランケットを鈴音ちゃんに手渡して衣装を受け取った。お、意外ともふもふ。肌触り良い。袖を通そうとした瞬間、冷たい手が肩を押さえた。いきなりの感触に「おウフッ!」と変な声が出てしまった。なっなななな何!?見れば目を見開いたまもり私の肩を押さえていた。



「な、なに!?」

「これどうしたの!?」

「え? い゙ッ…!?」

「やー!すごい痣!真っ青!」



まもりが肩を押したのか肩がズキッと痛んだ。鈴音ちゃんの言葉に理解出来ず顔をしかめる。痣?真っ青?まもりが押さえた肩を覗き込んだ。そこには野球ボールくらいの大きさの痣があって、思わずうえっと舌を出した。青いと言うか紫と言うか…なんか、痛々しい。てゆうか実際痛い。あーこれ、忘れてた。肩を押さえて溜め息を吐き出す。心配そうにしているまもりと鈴音ちゃんにへらっと笑いかけた。



「大丈夫大丈夫、気にしないで」

「気にするに決まってるでしょ!何よその痣!」

「ま、まさかアゴンヌに殴られちったとか…」

「違うよ。これ、阿含に噛まれたの」

「………え」

「………噛まれ、た…」

「あいつ加減しないからさ、痣もなかなか消えなくて…困った奴だよ」



一月近く前、阿含に肩を噛まれた。有り得ないくらい強い力で噛まれた為に痣がいつまでも残ってしまったのだ。全く、ほんと阿含ってば手加減しない。腹立つ。あはははは、と軽く笑ったのに、まもりと鈴音ちゃんはカチンと固まった。あれ?私何か変なこと言ったかな?固まったまもりと鈴音ちゃんの顔がみるみるうちに赤くなっていく。え?あれ???疑問符を浮かべる私の耳に、悪魔の囁きが聞こえた。



「────ほお?今は冬で、肩を出すような服装は有り得ねえのにそんなとこを噛まれたのか。それはつまりテメェが奴の前で肩を出すような…そんな格好をしてたんだなァ…?」

「!!!」



今初めて、自分が言ってしまったことの重大さに気付いた。そりゃふたりが赤くなる訳だ。てゆうか、私も顔が熱くなってきた。いつの間にかすぐ近くにいた悪魔がニタァ…とそれはそれは愉快そうに笑う。私が言葉を失ったのはそれだけじゃなかった。悪魔の後ろに、何故か練習を中断したプレイヤー達がこっちを見ていたのだ。いいいいい今の話、聞かれてた、よね。雲水と目が合う。雲水は真っ赤になったり真っ青になったり真っ白になったり忙しそうだった。他のみんなもうっすら赤くなっている。な、なにこれ気まずい!



「ケケケケケ!そうかそうか!テメェら恋人だもんな!加減も知らねえことを分かってるっつうことはなァ、そういうことだよなァ?奴は女遊びが激しいからさぞかしソッチの方もお盛んで」

「ちがっ…阿含は優しい奴だよ!」

「ヤサシイ?ナニが?」

「な…なにが、って…!」

「へーえ?ほーう?神龍寺の名前さんと阿含くんはもうそんな関係なんですかケケケケケ!これはお父様お母様に報告しなきゃ!」

やめてエエエエエエエエ!



────その後一時間掛けてヒル魔くんを黙らせたのち、みんなとの気まずい雰囲気をなんとかほぐすことに成功した。取り敢えず次阿含を見たら絶対ぶん殴ってやろう。阿含と顔を合わせなくなって二週間目のある事件であった。

これ、試合前の緊張感0じゃね?えっ?あれ?私の所為?

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