今までそういう話をする相手がいなかったから。だから、ちょっと暴走した。
「フミちゃんって胸おっきいよね」
「ぶほッ!」
じーっ。塩豆大福を食べるフミちゃんの胸を見つめて言ったらフミちゃんは大福を吹き出した。顔を逸らして盛大に咳き込んでいる。その衝撃に合わせて揺れる大きな胸。わたしは自分の胸を両手で覆ってみた。どれくらいの胸が大きくてどれくらいの胸が小さいのかなんて基準は分からないけど、フミちゃんに比べると一回り小さい。寂しいわたしの胸元。どうしてかな。先日来た仙子さんの胸も大きかった気がする。武家のひとは胸が大きいものなのかな。ふとフミちゃんを見たら首まで真っ赤になっていた。わたしと目が合うと慌てて目を逸らす。
「ばッ、だ、やめろ!そんなことをするなはしたない!」
「え?」
「手は膝!」
フミちゃんに言われて合点がいった。なるほど、胸を押さえてるのがはしたないと言っているのだ。素直に従って手を膝に下ろす。もう大丈夫だよ、と言えばフミちゃんは恐る恐る視線を戻した。顔は真っ赤のままだ。
「ねえ、どうしてフミちゃんは胸が大きいの?何か特別なことをしてるの?」
「え、も、もう、むっ、むむむむねの話はやめませんか」
「なんでいきなり敬語なの…ちょっと触っていい?」
「…さ、だッ、めだ!絶対駄目!」
この手の話には弱いんだろうなあと予想は出来ていたけどこうも真っ赤になるとは。フミちゃんって本当に面白い。フミちゃんは自分の肩を抱くようにして胸を庇うとわたしと距離を取った。いいじゃない、女の子同士なんだから。ずりずりっと下がっていくフミちゃんにじりじりっと近付いていく。フミちゃんのお尻が長椅子から落ちそうになった頃、ぱっとフミちゃんの手を取った。フミちゃんは真っ赤になったままキョトンと目を丸くしている。
「わたしの触っていいから。ほら」
「!!!」
フミちゃんの大きな手をわたしの胸に押し付ける。たいして沈みもしないわたしの胸。それでもフミちゃんへの衝撃は凄まじかったらしく、フミちゃんは全身の毛を逆立てた猫みたいにして固まった。目が見開いていて口をわななかせている。握ったフミちゃんの手はものすごく熱かった。しばらく固まった後フミちゃんは俯いてごにょごにょと言葉らしいものをこぼす。よく聞こえなくて首をかしげると、フミちゃんは少しだけ声を大きくしてごにょごにょと言った。
「っテ、て。手を、離して」
「あ、うん。…ごめんね?」
「いや…」
掴んだままだったフミちゃんの手を離す。フミちゃんの手は重力に従ってぺたりと長椅子に落ちた。フミちゃんの声も手も震えていてなんだかすごく申し訳ない気持ちになってしまった。俯いてしまったフミちゃんを覗き込む。フミちゃんは顔のパーツをぎゅっと中心に寄せていて、すごく困ったような顔をしていた。
「フミちゃんごめん。わたし調子に乗ってたかも」
「ち、違う。済まない、私は、こういうのが苦手で…」
「うん。ごめんなさい」
「…なまえ。謝るのは私の方なんだ」
「え?」
フミちゃんは未だ赤い顔を上げるとわたしの右手をむんずと掴んだ。そして、おもむろに自分の胸に押し当てた。え、うわ、え?突然の出来事に頭がついていかない。何これ、なんだか硬い…え?硬い?
「…フミちゃん、これ」
「…茶碗を詰めてある」
「どうして?」
「…さ、触るのはナシだからな」
フミちゃんはわたしに背中を向けると何やらごそごそし出した。フミちゃんは胸元から何かを取り出すと長椅子の上にぽんと置く。その『何か』は、木製のお茶碗だった。フミちゃんはおずおずと身体の向きを戻す。おっきかったフミちゃんの胸は、ぺったんこになっていた。
「……」
「…その、あの、あ、あまりにも小さ過ぎるから恥ずかしくて、詰めていて…」
「…じゃあ、わたしの方がおっきいんだ?」
「まあ、うん、そ、そうなる、かなあ」
「…ずるいよフミちゃん。わたし騙されちゃった」
「す、済まない」
「でも、わたしの方がいいよね。ちゃんと柔らかいし本物だし。ね?」
「そうだな、ちゃんと柔らか…、そッそういうことを口にするなばかたれ!」
「フミちゃん触ったくせに」
「お前が無理矢理…!」
フミちゃんは納得いかないような顔をしていたけどわたしは気にせず笑った。フミちゃんは真っ赤な顔を歪めてそっぽを向く。可愛いなあ、面白いなあ。こんなことしても本気で怒らないのは、わたしに心を許してるからだって、自惚れていいかな?フミちゃんありがとう。心の中で小さく呟いた。