ちょっと訊いてみたかったこと。答えてくれるだろうか。

その日もフミちゃんはやって来た。どうやらフミちゃんは七日に一回来るらしい。しかもお客さんがいない頃に。予知能力でもあるのかな。フミちゃんを長椅子に招いて隣に座った。勿論爺ちゃんに塩豆大福を作るよう頼んでから。フミちゃんは塩豆大福が好き、と言うより塩豆大福以外食べられない。そこまで甘いもの好きではないのである。それなのにウチに来てくれるんだからフミちゃんって不思議だよね。ウチの店って結構町から離れてて若い人なんか滅多に来ないから、ほんとに不思議。お茶を啜りながらフミちゃんをじっと見つめた。わたしの視線に気付いたフミちゃんが困ったように顔を歪める。


「顔が、何か?」

「ううん、見てただけ」

「…楽しい?」

「退屈ではないよ」

「…見られるのは好きじゃないんだが」


そう言ってフミちゃんは顔をそむけた。フミちゃんは最初の頃に比べると随分すらすら話せるようになったと思う。前は顔を見つめると真っ赤になっていたんだから、これはわたしに慣れてくれたんだと自惚れていいよね?ごめんなさい、と謝ればフミちゃんは少し顔を動かして気にしてない、と呟いた。

ちょっと、気になっていたこと。ただ訊いてもいいのか分からなかったから知らないフリをしていようと思ったけど、やっぱり気になる。湯飲みを膝の上でぎゅっと握り締めた。お茶を啜るフミちゃんを見据えて、口を開く。


「フミちゃんって時々男の人みたいな話し方をするけど、何か理由があるの?」


ぶうううううううぅッ、とフミちゃんの口から勢いよくお茶が吹き出した。幸いなことに前方に吹いたからわたしにはちょっともかかってない。フミちゃんは湯飲みを落としそうなくらいガタガタ震えてわたしと目を合わせた。顔が引き吊っていたのは見間違いじゃないはず。


「な、な、な、なっ…」

「立ち振舞いもどことなく雄々しい気がして…あ、別にフミちゃんが男みたいだって言ってる訳じゃないの。気分を悪くしたならごめんなさい」

「い、いや、はぁ…」

「それでね、フミちゃんにはご兄弟がいるのかな、って思ったの」


兄弟がいるなら少しくらい感化されてしまうものじゃないか、と考えた結果だった。でもフミちゃんは自分のことを自分から話そうとしたことが無いから答えてくれないんじゃないかと思った。わたし今だいぶ失礼なこと言ったし。嫌われてしまったらどうしよう。指先からじわじわと冷たくなっていくのが分かる。せっかく仲良くなれたのに嫌われるなんて絶対嫌だ。なんだか不安になって俯く。フミちゃん、わたしのこと嫌いになったかな。


「あ…兄が、ひとりいる」

「…え?」

「し、しかも双子で、私は兄に似てしまったからこうも男らしいの」

「双子?フミちゃんって双子なの?」

「え、えぇ。うちは武家だから立ち振舞いも自然とそういう風になるのかも知れない」


多少どもりつつ、でもしっかり話してくれたフミちゃんにびっくりした。双子だの武家だのにもびっくりしたけどフミちゃんがちゃんと話してくれたことが一番びっくりして、一番嬉しかった。そっか。そうなのか。フミちゃんはお兄様似なんだ。だから男の人っぽいんだ。それにフミちゃんが武家、ってすごく納得出来る。フミちゃんって背筋がピシッとしてるしいつも凜としているし気品がある。武家の人だったら当然のことなのかな。そっか、そっか。フミちゃんのことが少し分かった。それだけのことが、わたしには嬉しかった。


「フミちゃん、わたしといる時くらい普通に喋っていいんだよ」

「…普通に、って」

「フミちゃんらしく喋っていいの。その方がわたしも嬉しい」

「…じゃあ、なまえも私を客として扱わなくていい」

「……」

「普通に接してくれ」

「…フミちゃん」

「ん?」


目が点になった。フミちゃん今、わたしの名前、呼んだ?フミちゃんが店に来てくれるようになってまだ少ししか経ってない。でも、だけど、フミちゃんがわたしの名前を呼んだのは初めてだった。それに客として扱わなくていい、って。それってもっと気安く話し掛けてもいいってことかな。

湯飲みを置いてフミちゃんの手を握る。フミちゃんの肩がびくっと揺れたけど気にせず、フミちゃんを真っ直ぐ見つめた。


「フミちゃん、話してくれてありがとう」

「あ、あぁ…」

「ほんとうに、ありがとう」


ちょっと泣きそうだったけど爺ちゃんが塩豆大福を持って来たから必死に我慢した。それから、フミちゃんのお兄様の話を聞かせて貰った。フミちゃんのお兄様はいつも隈が絶えないらしい。
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